「僕は今、H大学で音楽学術研究の弦楽器学士コースを学んでいるんだ。
けど……」
『どうしたの!?
何か有ったの?』
「今朝お祖父様から電話が有って、父が意識不明の重体なんだって……、それで大至急ソウルに向かうところだったんだ。」
『お父様って、新星グループの高山社長が!?』
「そうなんだ。
君と話していたから、一瞬忘れていた……」
『恒寿(ハンス)君のお父様って、何処かご病気なの!?』
「今まで父が病気になったところなんて、見たことが無いくらい凄く元気な人なんだ!
だから、余計に心配なんだよ。」
『気を落とさないでね!
きっと大丈夫だよ。』
「ありがとう!
僕は大丈夫だから。
それから、この事はマスコミに内緒にしといてくれるかな。
即、株価に影響が出るからさ!」
『分かったわ。
内緒にしといてあげる。
何か有れば連絡ちょうだい。
力になれることが有るかもしれないから。』
「あぁ、宜しく。」
お互いにメアドと電話番号を交換して、その後も機内食を食べながら色々と話をした。
夕方過ぎに仁川国際空港に到着した。
『私はトランジットだから、ここでお別れね。
またお会いしましょうね♪』
「あぁ、それじゃあ!」
飛行機を降りて突き当たりで手を振り、彼女は乗り継ぎの為に南の通路へ向かい、俺は出国ゲートへ向かう為に北の通路を通っていった。
出国の手続きを済ませ、到着ゲートから出ると、そこには
「アボニム(父上)、どうしてここに……」
『驚かしてゴメンな!
どうしても帰ってきて貰わないといけない重要な案件があったから、つい悪乗りしてしまった。
兎に角、さぁ行こう!』
父の運転する車に乗り込むと、
「今から新しく購入した家に向かうから!」
……新しく購入した家に!?
お祖父様の無駄遣い病が父上にも伝染したのかな!?
『新しく購入したって、引っ越したのですか?』
「いや、安かったから父さんが買って、うちの不動産に管理させてたんだが、人が住まないと家が老築化しやすいから、俺が韓国に来ているときはそこを使っているんだよ。」
『やっぱりお祖父様でしたか。
それで、重要な案件と言うのは何ですか?』
「それは、取り敢えず家に着いてからにしよう。」
『分かりました。』
そして、仁川(インチョン)国際空港から車で25分、ソウル市内に入る手前にその家は在った。
およそ150坪程の敷地に、お洒落な洋館風な造りの2階建ての家だ!
車内からリモコンで操作できる入り口のゲートが、自動的に閉じていく。
車から降りて玄関扉横のタッチパネルに右手を乗せると、センサーが反応してオートスキャンが始まる。
アボニム(父上)の右手を読み取った瞬間、ドアが乾いた音と共に施錠が解除された。
「恒寿(ハンス)、さぁ入って!」
促されるように中に入ると、リビングにはハラボジニム(お祖父様)もいらっしゃった。