『バイタルは?』
「フラットです。」
『心臓マッサージまだ続けますか?』
「あぁ!」
『心停止して、既に5分経ちました。』
「除細動器を!」
『了解!』
救急車の中では今、正に命の灯火が消えかけようとしていた。
車載の患者モニターには、0の文字が表示され、心停止を表すフラットの線が流れているだけである。
その頃、俺は夢を見ている感じだった。
「やっぱ俺、死んじゃったみたいだな!
これが死後の世界?
真っ白で何も見えねぇや!
短かったなぁ、俺の人生。
ソナ‥‥‥
泣いてくれるのかなぁ………
オムニ(お袋)は、騒いでるかもなぁ………
あっちが明るいなぁ!
行ってみるか。」
『高 長寿(コ・チャンス)氏、待たれよ!』
「エッ?
どちらさん?
俺を呼んだ?」
『あぁ、確かに呼んだ!
オヌシ、何処へ参られる?』
「何処へ参られる?って、分からないから、取り敢えずあそこの明るくなっているところに行ってみようかと‥‥‥‥って、ところでおたくはどちら様ですか?」
「儂か?
儂の名は、高 陳旭(コ・ジヌク)と申す!
オヌシの御先祖様じゃよ。
今は、オヌシの守護霊をしておる。
オヌシ、まだ死ぬには早すぎるぞ。
拙者が、現世へと案内してしんぜよう。
着いて参れ!」
『ちょっと待って下さい。
俺、本当に助かるんですか?』
「そう申しておろうが!」
『高 陳旭(コ・ジヌク)氏って、俺が生まれる150年前に生まれたって言う凄い能力の人でしょう!?』
「儂か?
確かに、かなりキテレツな事が出来たものよ。
オヌシも相当の使い手のようだな。
まぁ、元は皆天の一族だからな!」
『天の一族!?』
「おっと!
これは秘密の話故に忘れてくれ。」
『まっ、良いか!
それでは御先祖様、宜しくお願いします。』
「おうな!任せられい。
これから暫く歩く故、道すがら理を説いておこう。」
『はい、何でしょうか?』
「先ずは、今この時の事、口外致すべからず。
記憶を操作しても良いのだが、それをすると、いずれ出来事に歪みが生じるでな、オヌシの記憶を操作致さぬ故、必ず守って貰いたい。
次に、オヌシの命を取り戻すために、オヌシの祖父の能力を借りた故、オヌシの祖父の能力は無くなってしもうたわ。
故に、オヌシが蘇生した後、祖父の能力を返してやってほしい。
儂の夜叉孫じゃが、残りの余生が心配でのぉ。
孝愃(ヒョソン=じいちゃんの名前)の頭に手を翳して、【返(へん)】と心で念じれば良いだけじゃ!
簡単であろう!?」
『ハラボジ(御祖父さん)に能力を返して、俺の体は大丈夫なんですか?』
「心配は無用の事よ。
元々オヌシの能力は、無尽蔵に産み出されている故に、一旦は能力不足になるやも知れんが、直に元通りになるでな!
さぁて、ここだ!
この先は、オヌシ一人でこの窟を抜けて行って貰おうかの。
儂はここまでじゃ。
いずれまた会える日が来るでの、その日まで暫しの別れじゃ。
短い一時じゃったが、オヌシと直接話が出来て楽しかったぞ。
これからも、常に人の為に出来ることを考えて時を過ごせよ。
それでは、また70数年後に会おうぞ!
それまで達者でな!
儂も守護霊として見守っておるぞ!」
何か、凄い夢を見ていた。
かなりリアルなんだけど、まさかのマジもの!?
でも、本当に助かるのかなぁ‥‥‥‥
窟に入って、どのくらい経ったか分かんないが、まだまだ先の方は真っ暗なままだ。
しかし、不安は無かったし、真っ暗なのだが、不思議と足は進むべき方向を分かっているかのように躊躇無く進んでいる。
どのくらい歩いたのか、段々と眠たくなってきたが、遠くから俺の名前を呼ぶ声がして、起きなきゃと思い、そぉ~っと目を開いたら、そこは紛れもなく病院のベッドの上で、両親や妹のハヌル、それに婚約者のソナが俺の顔を覗き込んでいた。



