CHANCE 2 (後編) =Turbulence=






4月初め、T大を卒業したソナが新星MUSICに入社して来た。



所属は広報課に決定している。



勿論、妹のハヌルとセットでの広報課行きだ。



KYUは、相変わらずPJと共にORJANG(オルチャン=イケメンの意味)と言うユニットで歌手活動をしている。



俺は、SEMプロダクションの小川社長ことSeijiさん達ナイトメアのメンバーと一緒に、ツアーに出ている。

4月中に全国の主要都市8ヶ所を廻って、5月のゴールデンウィークは、1日から10日まで完全にオフになっている。



そこで、5月1日にソナと結婚式を挙げることに決めたのだ。



公の発表は、当日の朝ひまわりTVで報道される。



既に、俺とソナの2ショットでの結婚報告ビデオは撮り終えているので、流すだけだ。



結婚式は、韓国はソウル特別市に在る新星MUSIC本社横に在るお寺で伝統的な婚礼式を行い、その後新星MUSIC本社の別館大広間で披露宴を取り行う事に決まった。



ようは、KYUと同じパターンでやるということだ。



4月28日の深夜、Seijiさん達ナイトメアのメンバーと別れを告げて、一人車を飛ばして、高速道路を走っている。



漸く東名高速に乗り、後1時間も走れば人形町の自宅に到着するだろう。



相模川を越えた辺りだから、もうすぐ厚木だよなぁ。



いつもだったら、深夜でもこの辺は軽く自然渋滞になったりするはずなのに、いつも見かける大型のトラックが殆ど走って無いや!



もしかして、世間はもう既にゴールデンウィークに突入してるのか!?



なんか最近毎日、曜日の感覚が薄れてきているよ。



休みなしで働き続けると、日にちの感覚すら無いときが有るからなぁ。



やっぱ働き過ぎかな!?



あぁ~あ! ちょっと何か疲れてきたなぁ。



リハーサルに熱が入って、昨日の朝5時に寝たと思ったら、9時には叩き起こされるし!



4時間しか寝てないって言っても、Seijiさん達ナイトメアのメンバーも全員それくらいしか寝てないもんなぁ。



午前中に最終リハーサルを終わらせて、ツアー最終日の会場、大阪城ホールへと向かった。



全く仮眠出来ないまま、ライブに突入した。



終わったら終わったで打ち上げだぁ!って、シャワー浴びて直ぐにミナミに繰り出すし、Seijiさんに開放されたのが深夜12時過ぎだった。



あの人達は、本当にタフだ!



それとも俺がヌルイだけなんだろうか!?



そんな事を考えていたら、既に神奈川県大和市から横浜市に入っていた。



あぁ、後30分くらいで都内に入るな!



もうすぐ、自宅で待つソナに会えると思うと、アクセルを踏む足に力が入った。



相変わらず高速道路は空いていて、緩やかなカーブが続く道を、どんどんと都内に向けてハンドルを切っていく。



その時は気が付かなかった。



予想以上にスピードが出ていることに。



その上、数日前からの疲れと睡眠不足も重なり、単調な運転にいつしかウトウトし始めていた。



川崎市に入り、和泉多摩川を越えて暫く行くと、長く続く大きな右カーブが在る。



深夜12時からずっと高速道路を運転して、既に夜が明けかけている。



時刻は現在6時半過ぎ。



まだほの暗いが、東の空の奥は濃い紫色から徐々に赤く染め直されている様だ。



そこで、不覚にも一瞬意識が飛んでしまった。



時間にして1秒か2秒の事だろう。



次に意識が戻った時は、目の前に高速道路の左側のフェンスが目前に迫ってきていた。



あぁ、衝突して仕舞う!



これで俺の人生が終わるのか!?



ソナ‥‥‥‥



サヨナラ‥‥‥‥



まだ死にたくない‥‥‥‥



ドッ~~ガン!ガリガリ!ガタン!ゴロンゴロンゴロン!カタカタ!コトン!



フェンスに激突しかけた瞬間、ハンドルを切りフェンスに擦られながらも、遠心力の続く間は、どうにか前に進んでいたが、フェンスが終わったところでフロントバンパーとフロントグリルが飛び出ているフェンスの角に刺さり、バランスを崩した車は3度転がり、逆さまになって高速道路を滑って行った。



左右の扉は外れ、フロントガラスは粉々に。



天井は潰れ、燃料のガソリンが漏れ初めている。



このままでは、直ぐに爆発炎上は免れない!



幸い、東名高速はガラガラに空いていたが、そうなると誰も助けが来ない状態である。



車外に人影らしきものは無く、ただ1台の車が横転して、終には漏れたガソリンに引火して物凄い音と共に車は炎を上げた。



チャンス25才の春の事であった。