ジムの悲痛な叫びを聴いた俺は、受話器を置いて直ぐに斜め向かいのジムの部屋にむかった。



そこには、ガックリと項垂れてベッドの端に腰掛けているジムの姿が!



「どうしたんだいミスター ジム?」



『遣られたよ!』



「何を遣られたんだい?」



『キャッシュカードや、クレジットカード、トラベラーズチェックなんかは全く手を着けてないんだが、携帯電話やデジカメ、MP3プレイヤーなんかの身の回りの物と現金まるまる10,000$程持っていかれたよ。』



「大変じゃないか?!

警察には?」



『さっき電話したよ。』



「ところでミスタージム、あのメタルフロントのギターは?」



『オーマイガッ!

遣られた~!

あれが一番大事なやつなのに。』



マジでへこんでいるので、これは助けてあげなきゃ。



俺は、久しぶりに封印の指輪を外して、ジムのビジョンを観ることにした。



かなり酔っぱらっていたジムは、金髪の若い女性2人と共に部屋に入って、どうやら飲み直すみたいだ。



一人の女性が話を盛り上げながらも、どんどんお酒を勧めていた。



「かなり飲まされたんでしょ?」



と、白々しく聴いてみたが、すでに酔っぱらっていたので殆ど覚えてなかった。



『頭痛ぇ~!』



「無用心でしたよね。

それにしてもギターを持って行くかねぇ!」


『 自慢したからなぁ!

トニーゼマイティス氏がハンドメイドで作ったZEMAITIS のメタルフロント最後の作品で、超レアなギターだから、今なら20万ドル以上するんだぜって話したからなぁ。』



「そんなにするんですか?

確かに、トニーゼマイティスの手作りは高いって聴いてたけど、日本円で2,000万円って、通常彼の作るメタルフロントのカスタムメイドだと200~300万円程なのに、桁が1つ違うなんて!」



『実は、あのギターは、彼の遺作である上に、彼の中でも最高ランクに入る逸品なんだよ。

チャンス君も聴いただろう、あのギターの音色?』



「確かに、歪みもなく、とっても素直なストレート感の有る音色だったよ。」



『トニーの作るギターは、殆ど歪みが無いのが特徴だが、逆に言えば単調なチープな音に成りやすいんだ。

でも、あれは歪みが殆ど無い上、音に深みがあり、低音のバスレベルを上げてやると、強烈にインパクトの有る音に化けてくれるんだ。

そして10数年前に、トニーが亡くなると価値はどんどん上がり、気が付けば買った時の値段の10倍以上になっていたんだ。』



「でも、まさか彼女達が泥棒だったとはなぁ。」



『多分、俺は睡眠薬を飲まされたと思うんだ。

俺、自分で言うのもなんだけど、あれくらいのビールやワインで意識飛ばした事無いんだ!

底無しのジムって言われるくらい酒には強いんだぜ!

それが記憶を飛ばすとは‥‥‥‥

絶対あり得ない!』



「じゃあ、まだ1週間有るから、それまでにギターを取り戻しましょうか!

俺が必ず取り返してあげるよ。」



と、ジムの肩に手を置き、自信満々の笑顔でジムを安心させた。



そして、彼女達が飲んでいたワイングラスに残る残留思念から探り始めた。