会計を済ませて外に出ると、10月も半ば過ぎだというのに、少し蒸し蒸ししていた。
今まで空調の効いた場所にいた上、酔って体が熱いから、余計にそう感じたのかもしれない。
『ミスター チャンス、今度は俺が奢るからもう1軒付き合えよ?』
「良いですよ。
ホテルに帰ってもすること無いし、寝るにはまだ早いですから。」
『この近くに、飲んで踊って楽しめるところが在るんだ。
さすがニューヨークだよ!
タクシーに乗って直ぐだから!』
そして5分後、到着したところには
《Highlander》
と書かれた、ガラス張りのエントランスのお店だった。
「凄く派手なファサードですね?!」
『ロンドンにいた頃を思い出すよ。
俺は、アイリッシュ パブよりもブリティッシュ パブの方が好きだから、こんな感じの店が好きなんだ。』
中に入ると落ち着いた雰囲気で、俺も何となくジムが気に入る理由が解ってきた。
メニューを見ると、欧米人が好みそうなコッテリ系の料理が豊富に有った。
料金も良心的で、何度でも来れそうな店作りだ。
「ミスター ジム、何飲みますか?」
『ギネスで!』
「じゃあ、取り敢えずギネスビール2杯お願いします。」
ウェイターに、丁寧な英語で注文をして、ジムともう一度乾杯した。
適当にツマミを頼んで、序でにフルーツの盛り合わせも頼んだ。
少しコッテリしたのばかり食べたから、あっさりしたのも欲しくなったのだ。
ジムは、32才だというのに相変わらずラム肉やソーセージの挟んであるミニバーガーを頬張りながら、ギネス ビールで流し込んでいた。
「さっき食べたばかりなのに、良く入りますね?」
『大体、日本人は少食過ぎるんだと思うよ。
イギリスじゃあ、俺の家族は晩御飯だけで、両親と兄貴と俺の4人で200グラムのステーキだったら8枚食べて、ポテトサラダを1㎏は平らげるから!』
「凄すぎますよ。
でも、それにしてはミスター ジムも、お兄さんのミスター ニックも太ってないですね?」
『イギリス紳士がブクブク太っていたらカッコ悪いだろう?!
だから、体調管理にも気をつけているんだ!』
「なるほど!
(スミマセン、ギネス2杯おかわりで!)
私は、1回ライヴ遣ると5㎏くらい痩せますよ。」
『俺達モンスターズのライヴは激しいから、1回のライヴで10㎏近く痩せるぞ!』
「凄すぎますねぇ!
一体どんなライヴなんですか?」
『大体、ステージの上にいるより、客席を走り回っている時間の方が長いかも?
コードレスのギター持って、客席で即興的な演奏してはステージに戻って演奏って感じの繰り返しだよ。
前は、客席を走りすぎてバテて仕舞って、ステージに上がるアップ ステアーズで蹴躓いてよ、慌てて手を突いたら手のひらの骨がヒビ入って、後の演奏が出来なくなったりしたよ。
観客に【すまん、怪我したから演奏出来んぞ!】っていったら、【構わんから、口でボイスギターやれば?】なんて言うしまつさ!
だから、その後、1時間くらいは、自分のパートはボイスギターさ!
翌日のITVのニュースで取りざたされたよ。』
「破天荒ですね!」
等と、面白楽しく会話をしていたら、俺達のテーブルに金髪の若い女性が2人遣ってきた。
彼女達は、モンスターズの大ファンだと言う。
酔っぱらっていたジムは、彼女達を自分達のテーブルに合流させて、大いに盛り上がっていた。
普段大人しい俺も、海外に来ている事と、お酒が入っていた事もあって、かなりがぶ飲みして、はしゃいでいた。
深夜0時くらいに、俺はホテルに戻って来た。
ジムは、彼女達を連れて帰って来た。
金髪の若い女性2人は、そのまま3人でジムの部屋へと消えていき、俺も自分の部屋に入ってドアロックして寝た。
そして翌朝、部屋に備え付けの電話の音でめが覚めた。
まだ寝足らない頭を揺り起こして、不機嫌な声で、
「ハロー!
どちら様?」
『チャンス君、俺だ!
ジムだよ。
大変だ!
今すぐ俺の部屋に来てくれ、頼む!』