人相書きを見た瞬間、確かに以前見た事の有る顔であった。



記憶を手繰り寄せてはみたものの、どうにも思い出せないでいた。



『平田さん、たぶん見た記憶は有るんですが、思い出せないです。』



「そりゃあ、会ったのはこの店だろうよ。

脱法ハーブを買ったカップルの話だと、店内で買ったって言ってたからな。」



『今どきカップルって!』



「福田幹候(幹部候補生の意味)、ちょっと黙っときなさい。」



『支配人さんよ、このあんちゃん接客業に向いてないんじゃないか?』



「済みません。

兎に角、この似顔絵の男が来たら直ぐに連絡いれますので。」



『頼むよ支配人!

そっちのあんちゃんも、宜しくな。』



「‥‥‥‥‥‥」



『無視かよ。

まぁ、良いわ!

じゃっ、そう言うことだから。

余計な事しなくて良いから、見たら直ぐに連絡してくれ!

俺の携帯でも、110番でもいいからな!

それと、ここの経営者に一度出頭するように伝えてくれるかい?

手続き上で必要だからな!』



「分かりました。
それじゃあ、御苦労様です。」



渋谷署の平田刑事は、部下を3人引き連れて去っていった。


『デカイ態度しやがって!』



「福田幹候(幹部候補生)、あなたの態度も人の事言えませんですよ!

罰として、今日から1ヶ月間トイレ掃除を一人ですること!

分かりましたか?」



『エッ、マジカヨ!

わ 分かりました。』



「それと、エントランスチェックで、この男が遣ってきたら知らせて下さい。」



『了解しました。』



「それから、言葉使いをきちんとしてください。

あなたは、もう学生じゃないんですから。

出来ないのであれば、新星MUSICでは必要ありませんから。」



『はい、分かりました。』



何か言いたげな顔をしたが、一礼して直ぐに持ち場に戻って行った。



彼は、今年の春W大を卒業して新星グループに入ってきた。



実家が医者の家系で、両親共に医者としてそれぞれ病院を持っている。



母親は産婦人科を、父親は脳神経外科を経営するドクターである。



兎に角ボンボンで、我が儘に育ったみたいだ。



両親とは不仲で、姉と兄がそれぞれ親の跡を継ぐことになっているから、彼自身は医大に進まず、W大の法学部に進んだそうだ。



頭は切れるが、人としてはまだまだ未熟なガキである。



この福田眞(フクダマコト)幹部候補生は、事有るごとにトラブルを呼び込む。



計算してか偶然か?



常にトラブルの渦中に身をおいていた。



今回は、刑事と知ってか知らずか、兎に角エントランスで必要以上の入店チェックで平田さんを怒らしていたし。



頭が痛いのは事実である。



俺は直ぐに事務所に戻って、高山常務へメールを送信した。



「報告書

今回、Seoul Night 1号店の店内において、顧客同士で脱法ハーブの売買が行われ、それを吸引した男女が救急車で都内の病院に搬送されたそうです。

店内で買ったとの証言から、渋谷署の方から経営者の出頭要請がありました。

担当は平田刑事部長となっておりますので、宜しくお願い致します。

支配人 安東淳志」



送信―・―・―・―!



すると、直ぐに高山常務から電話が入ってきた。



『モシモシ!安東支配人!高山です。』



「常務、お疲れ様です。

今、お時間宜しいのですか?」



『大丈夫です。

メール読みました。

脱法ハーブの売買ですか?』



「そうなんです。

うちの店内でお客さんから買ったって言ってるそうです。

それで、一度店内にも調査が入ると思われます。

そのための手続きとかも有るそうで、一度経営者が渋谷署へ顔を出さないといけないそうで、宜しくお願いします。」



今日の出来事と刑事とのやり取りを、事細かく説明して、明後日の朝一で出向く旨を渋谷署へ伝えて欲しいと言われて電話が切れた。