渋谷のクラブ''Seoul Night''では、週末ともなると芋を洗うが如くの超満員で、カウンターバーにも、ホールから溢れた若者達がビール等を片手に時間潰しの談笑を交わしている。



テーブルもVIPルームも人で溢れて、ホールはホールでダンスどころではない状態が、かれこれ3時間も続いていた。



それでも深夜0時を過ぎると、落ち着いてきて、ホールも踊るスペースが出来てくるのだが、まだ9時過ぎだから暫くはこの状態だろう。



週末は朝5時までの営業で、平日は3時で閉店となる。



Seoul Night 1号店の支配人、安東淳志(あんどうあつし)は、今日も店内をチェックしながら、未成年者の喫煙や飲酒がないか監視していた。



この店は、身分証の提示が無ければ入店は出来ないシステムになっている。



初めて来店された人は、入口にて身分証明書の類いを提示してもらう。



その時点で、瞬時に会員証を発行して、次回からはその会員証を提示すると入店が許されるのだ。



その会員証は読み取り式で、読み取り機と店内に有る端末が連動しているのだ。



すなわち今現在、店内に未成年者が何人居るかとか、男性が何名とか女性が何名とかのデータが手に取るように分かるようになっている。



支配人は、責任もって10時には未成年者に退店してもらっている。



その代わり、営業開始は夕方5時からとかなり早いのだ。






深夜2時を過ぎた頃、エントランスで数人の男達がドアボーイに大声でさけんでいた。



支配人の俺は、何か揉め事なのだろうかとモニターから目を離してエントランスへと急いだ。



「身分証を見せてください。」



『若造、俺の事知らないの?

支配人呼んでくれるかな?』



「渋谷署の平田刑事さんじゃないですか!」



『おう、安東支配人!

このドアボーイは新人か?』



「はい。

この4月に入社して来て、1年間はこの店で研修なんですよ。」



『このあんちゃんに、俺の事教えとけよ!

俺に身分証明書出せだとよ!』



「まぁ、入ったばかりだし規則なんで、今回は大目にみてやって下さいよ。

福田幹部候補生、この人は渋谷署の刑事の平田さんだ。

渋谷の狼って恐れられた、凄腕の刑事さんだから。

ちゃんと覚えておくように!

分かったね?」



『渋谷の狼ですか?

キャンキャン良く吠えるから、トイプードルの間違いじゃないですか?』



「おい、あんちゃん!

良い度胸してるな!

新人が吠えてんじゃないよ。

この俺が‥‥」
『スミマセン平田さん!

この俺が、ちゃんと教育しときますんで、今日のところは‥‥』
「分かった!分かった!」


『ところで今日来られたのは、何かあったんてすか?』



「おっと!忘れるところだった。

お前ん所の店内で脱法ハーブの売買が合ったぞ!」


『うちでですか?』



「あぁ、そうだ!

ついさっき、若いアベックが救急車で病院に搬送されてな!

男の方は意識が無いが、女の方は目眩と吐き気だけで、意識はしっかりしているんだ。

男の症状が異常だったんで、発見されたのが渋谷の路上駐車された車ん中だったから、俺んとこに通報が入ったんだよ。

ほんで、女の方に尋問かけたら、おめぇんとこの店で知り合った男から脱法ハーブを買ったって吐いたわけよ。

彼女の証言から、売人の人相書きを描いたのがこれだよ。

見知った顔か?」



『ちょっと良く見せて下さいね。


‥‥‥‥


う~~ん!

どっかで見た事有る顔なんだけどなぁ‥‥

あぁ、思い出せない!』