俺とアボジ(親父)は今、和久井外科病院の待合室にあるソファーに座っている。



隣に座っているアボジの顔が、微妙に強ばっているのが見てとれる。



「高山さん、どうぞ!」



と言う声が聞こえて、弾かれた様に立ち上がる。



診察室の中に入ると、アボジと同じ年くらいのドクター和久井が、にこやかな笑顔で座っている。



『先生、どうでした?』



ちょっぴりうわずった声でアボジが尋ね、



「高山さん、胃ガンで内科治療をされているとか聞きましたが?」



『はい。

手術で癌細胞は取り除いたのですが、取り残しが無いとも言いきれないのと、再発を懸念しての事です。』



「そうですか。

もう、それは必要無いですね。

完全に完治しています。

抗がん剤治療を続けると、副作用がひどいみたいですね。

そっちの方が心配です。

直ちに抗がん剤治療は止めて、栄養のあるバランスの良い食事を心掛けて下さい。

それから、煙草とお酒はこれを機に止められることをお勧めします。

今は完治していますが、煙草やお酒の摂取によって肺癌や大腸癌、または胃ガンの再発って言うのも起こりかねませんので。」



『そうですよね。

今回は、身に染みました。

家族の心配する姿を見るのって辛いって言うのも分かりましたから、頑張って禁酒・禁煙する事にします。

先生、禁煙する為の治療は保険がきくんでしたよね?』



「保険ききますよ。

宜しかったらうちでも禁煙外来遣ってますから、落ち着いたらお越しください。

禁煙パッチでも、飲み薬タイプでも大丈夫ですよ。」



『分かりました。

それじゃあ来週頭にでも来ますので宜しく頼みます。』



「分かりました。

それでは、予約しておきます。

もう今日はこれで結構ですよ。

お大事に!」



『どうもありがとうございました。』



そして駐車場に来て、



「アボジ(親父)、大成功ですね。」



『未だに信じられないけど、先週辺りから、体が軽いなぁなんて思っていたんだよなぁ。』



「そりゃあ、胃ガンは治っているし、ここ2ヶ月間は酒も煙草もやってないし、おまけにしっかり三食食べてりゃ元気なはずですよ。

抗がん剤治療の副作用で見た目は病人っぽいのになぁ。」



『だから、ヨンミちゃんが心配して、いつも俺の側から離れないんだよなぁ。』



「それではアボジ、来月からボチボチ復帰ですか?」



『いや、その前に遣らなきゃいけない事が有るんだ。

長年、忙しく働いてきたから、家族でどっかに旅行って無かっただろ?』



「そうですよね。

それでも小さかった頃は、江ノ島やルスツ、沖縄や長崎って行ったのを覚えていますよ。」



『まぁ、今言った所だけしか行ってないけどね!

そこでだ!

家族4人で海外旅行に行かないか?』



「マジですか?

じゃあ、ソナやKYUも誘って6人で行きましょうよ。

いずれ家族になるんだから。

それに、もうすぐソナ達も夏休みだし、KYUだってXYZ解散してからスケジュールだって以前より緩いから、調整すれば10日間くらいとれるでしょ?

俺、行きたいところがあるんですよ。」



『何処に行きたいんだ?』



「ハワイ!

芸能人等は皆、売れてきたらハワイに行くじゃないですか?

俺達って、売れ過ぎて忙し過ぎてハワイどころじゃなかったんですから。」