俺は先ず、先日見せてもらったアボジ(親父)の癌細胞の顕微鏡の映像を思い出した。
そして、その細胞だけが一旦消えて、次にタッパーの中に瞬時に現れるイメージで、最初は5ml程度だけを抜き取ってみることにした。
左手をアボジのお腹辺りに翳して、G弦解放のイメージで一気に気合いを込めた。
こういうものは、躊躇したら巧くいかない。
ダメで元々なんだから、翳した左手を抜き取るようなイメージに動かして、たんでんに力を込めた。
その瞬間、蓋をしたままのタッパーの中に突然何かしらの物体が現れた。
間違いなく癌細胞だろうが、あまりじっくりとは見たくない。
大体20回ほど、ゆっくり繰り返して4時間かけて100ml程度の癌細胞の除去に成功した。
この力を4時間使いっぱなしで、ヘトヘトになりかけたが、アボジ(親父)はもっと辛そうであった。
当然の事ながら、体の中からあんパン1ケ分ぐらいの物体を麻酔もかけないで抜き取ったのだから、かなりには痛いはずである。
それでも、額に脂汗を溜めながらもニヤッと笑って、
『チャンス、大したもんだ!
このまま、繰り返していけば最終的には完治出来そうだな?』
「そう簡単にはいかないですよ。」
『どうしてだい?』
「アボジ(親父)の体のあちこちに転移している癌細胞を、俺の頭の中のイメージだけで除去するには限界があるからですよ。」
『じゃあどうするんだい?』
「ここの病院では、いずれバレてしまいますので、一旦退院して下さい。」
『まぁ、そりゃもちろん治療を諦めたていで退院すればいいだけだからな。』
「つぎに、この病院で撮影したMRIやCT画像、カルテから入院した書類全てを回収します。
後で調べられたく有りませんし、MRIやCTの画像を見ながらアボジの体の中の癌細胞を除去していく方が効果的ですから。」
『なんとまぁ、いろいろ考えているんだなぁ!』
「はい。この力を身に付けた時から、兎に角証拠を残さない様にって言うのを心掛けてましたから。
さて、それらの事は、私の力で簡単に回収できます。
問題は、その後のアボジの本当の治療をしてもらう病院を探さないといけないでしょう。」
『チャンスが、物体の瞬間移動で癌細胞を除去して終わりだろ?』
「まさか!
そんなわけにはいきませんよ。
癌細胞を除去しても、元々癌でダメージを受けた内臓を治療しないと、通常の生活を送るのは難しいですよ。」
『エッ?そうなの?』
「例えば、今のアボジの胃は、癌細胞を完全に除去しておわると、胃の3分の1は、胃の表面が傷付いた状態ですよ。」
『だから、少しずつしかやらなかったんだ?』
「そうですよ。
一気に癌細胞全てを除去したら、多分ですがアボジはショック状態になって、数時間後には御臨終ですよ。」
『そ‥‥‥そうなんだ‥‥‥‥‥‥』
「何もビビる事はありませんよ。
今回のやり方で、大体1週間に1度の割合でやっていけば、多分あと6回、1ヶ月半でほぼ綺麗に癌細胞はなくなる予定です。
それと平行しながら、傷付いた内臓を治療して貰います。」
『どうやるんだい?』
「ここからが本題です。」
俺は、アボジの方を向いてニャッと笑って、こう続けた。



