「アボジ(親父)ゆっくり寝ててください。
寝ている間に背中擦ってあげます。」
『ありがとうチャンス。』
アボジがベッドに横向きで寝て、オモニ(お袋)がアボジの手を握っている。
ソラは、アボジの足元のベッドに顔を押し付けてまだ泣いていた。
俺は、アボジの背中を擦りながら心の中であることを考えていた。
それから1時間後、看護師が車イスを押しながら病室にやって来て、
「高山さん!
そろそろ手術になりますので、移動します。
こちらの車イスに乗って下さいね!」
『あいよ!
じゃあみんな!
行って来るから、待ってなくて良いから帰ってて。
また明日の朝、お見舞いに来てね!』
「ヨボ(アナタ)、私は待ってますからね。」
『ヨンミちゃんも、今日だけは帰ってて。
今晩はグッスリ寝て、明日の朝一にヨンミちゃんの元気な顔を見せてくれるかい?
ヨンミちゃんの笑顔が、俺の一番の薬だから。』
「アボジ、子供達の前で、良くもまぁそんなにのろけられるな!
いつもながら感心するよ。」
『当たり前だろ?
俺の愛する大事なヨンミちゃんが、看病疲れでやつれていくのを見てて、俺が元気に成れると思うか?』
「わかりました。
それじゃあアボジ、また明日。
一応俺は、手術中に何かあった場合を想定して、手術室前でスタンバっておくから。
ソラ、オモニ(お袋)と一緒に一旦は帰っておいて。
何か合ったら電話するから。
まぁ、何も無いとは思うけどね。」
『チャンスお兄ちゃん、アッパ(パパ)をヨロシクね!
オンマ(ママ)着替えもいるし、洗濯物も持って帰らなくっちゃ!
じゃあアッパ、頑張ってね!』
「ヨンミちゃんもハヌルちゃん(ソラの本名)も、行って来るからね!」
アボジは、満面の笑顔を家族に向けて、それから前に向きなおして後ろ手でバイバイと手を振りながら、看護師さんと共に一旦手術室のある5階のナースステーションの隣の病室に入っていった。
『それでは、こちらのストレッチャーに乗り移って貰います。
このストレッチャーで手術室迄移動して頂きますので。』
「はい。」
『それでは、あと少しだけこちらの病室でお待ち下さいね!
直ぐに迎えの看護師が参りますので。』
と言って、俺の病室担当の看護師は去っていった。
ここからは、手術担当の看護師と交代だ。
その間、さっき背中を擦って貰っていた時に流れ込んで来たチャンスの思考について考えていた。
あり得ない馬鹿げたチャンスの思考に苦笑しながら、いつのまにか眠っていたらしい。



