二人で病室に戻り、妻のヨンミちゃんは床擦れしないように優しく背中や足をマッサージしてくれてた。
その後、いつものように患者用のベッドの横に置かれた付添人用のベッドに潜って、なかなか寝付けなかったみたいだったが、いつの間にか二人共朝までぐっすり寝ていた。
翌朝、息子のチャンスがやって来たので、付き添っていたヨンミちゃんは、シャワーを浴びて着替えて手術が始まる午後2時迄には戻ってくるからと言って帰宅して行った。
「アボジ(親父)、調子はどうですか?」
『腹ペコだよ。
昨日の昼過ぎから何も食ってねぇんだから‥‥‥
酒も飲んでなければ煙草も吸ってねぇし!
その代わり点滴を1日で4本も射たれたよ。
チャンス、頼むから俺の未来のビジョンを見てくれ!
手術は成功するのか?』
「えぇ~!
俺がですか?
そんな重責を‥‥‥‥‥
アボジ(親父)が、俺の未来のビジョンを見てくださいよ。
そしたら分かるじゃないですか!」
『見るのが怖いから、頼んでいるんじゃないか!』
「‥‥‥‥
すんごいワガママな患者!
わかりました。
見てみますから。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
アボジ?」
『なんだ?』
「ドクターが開腹した後に、眉間にシワを寄せて、直ぐに閉腹しているのがみえました。」
『それって、もう手の施しようがないって事か?』
「分かりません。
ですが、次のビジョンでは、ハラボジ(お祖父さん)が日本に来て、アボジ(親父)の手を握って泣いているのが見えてきました。
いったい、どういうわけでしょうか?」
『最後の別れって訳だよ。
分かったから。
もう良いよ。』
「アボジ!
そんなこと言わないで、病気と戦っていきましょうよ。
何か良い方法が有るかもしれないでしょう。」
『どう足掻いたって、末期の胃ガンじゃどうしようもないだろ。
もう俺は覚悟したから、後の事は李支社長等と相談しながら頑張ってくれ。』
「兎に角、午後からの手術に期待するとして、アボジ(親父)はもう少し横になって体を休めておいてください。」
と言って、アボジにフトンをかけてあげてから病室を後にして、担当医と今日の手術について相談しに向かった。
『すみません瀬戸先生。
父の手術って、やっぱり難しいのですか?』
「高山さんの場合、腹腔鏡検査を行なって遠隔転移や腹膜播種が認められたので、手術前に化学療法を行ないましたが、あまり効果がなかったのです。
ですから残念ですが、胃の全嫡手術をおこないたいと思います。
幽門を保存する事は難しいでしょう。
ですので、術後ダンピング症候群や胃切除後症候群などが起こると考えられます。
また、胆汁が逆流したりする事があります。
自宅での生活は可能ですが、食事制限は否めません。
癌が周囲臓器に浸潤しているなど極度に進行していた場合、それらの臓器とも一緒に切除することで癌をすべて切除できると判断された場合には合併切除を行います。
その後、食道と小腸を繋ぐバイパス手術をおこないます。」



