CHANCE 2 (後編) =Turbulence=






皆が帰った後の病室は急に静かになり、さっきまで皆が飲んでいたジュースのグラスを洗う音だけが響いている。



そんなヨンミちゃんの後ろ姿を見ていたら、どういう訳か涙が出てきた。



泣いているところなんて見られたくないので、ソッと布団に潜って寝たふりをしながら涙を拭いた。


『貴方、もう寝たの?』



「‥‥‥‥‥‥」



『もう寝ちゃったのね。

急に大勢で来たから、ヤッパリ疲れちゃったのかしら?』



「‥‥‥‥‥‥」



『ゆっくり休んで下さいね!

絶対に貴方を一人ぼっちで逝かしたりしませんから。

生きるのも逝くのも、絶対に一緒ですから。

明日は安心して、手術を受けてください。

それじゃあ、部屋の電気消しておくわね!』



と言って、病室の電気を消して小さなブランケットを手に病室の外に出た。



そのまま、詰め所横に有る休憩所に行き、背中にブランケットを引っ掻けてテーブルに向かって息子のチャンスと娘のハヌルに手紙を書き始めた。







照明が落とされた病室の中は、廊下から溢れてくる灯りのお陰で、仄かにうっすらではあるが明るく、ベッド横に有るサイドテーブルの上に有る水飲み用の蓋付きのストローのささったコップも良く見えた。


少し飲んで、喉のおくを湿らせてから、また目を瞑って眠気が遣って来るのを待っていた。



「さすがに、昼間ずっと寝てたから眠れないや!」



独り言が、広い個室の病室に溶けていった。




休憩所では、妻のヨンミが子供達へ書く手紙の文面が決まらず、ひとり唸っていた。



『もう、何て書いたら良いか分かんないよ。

え~ッと、子供達へ

お父さんが一人ぼっちで旅立つのは、寂しくてかわいそうだから、私が、天国まで付き添って‥‥‥‥‥

何か文章が陳腐よねぇ!

え~ッと

チャンスや ハヌルや

私は‥‥‥‥‥‥

駄目だ!

婆さんが書いた様な文面だし!

ヨシ!

愛する子供達へ

ごめんなさいね!

やっぱり私は‥賢主(ヒョンジュ)さんが居ないとダメみたい。

だから、あの人と一緒に旅立ちます。


ん~! 何か変なんだよねぇ。

いざ、書き置きしようと思っても結構難しいもんね。』



「ヨンミちゃん、何してるの?」



『貴方?

どうしたの?

寝てないとダメじゃない!

明日は手術なんだから。』



「なかなか眠れないんだよ。

ヨンミちゃんは何書いてるの?」



『貴方にもしもの事が有った場合の私の遺言って言うか書き置き?』



「何バカな事やってるの?

ヨンミちゃん、絶対に俺はこんな病気ぐらいで死なないから、そんなもの書くの止めなさい!」



口調はきついが、愛情たっぷりの眼差しで妻を見つめ、そしてギュッときつく抱きしめた。