皆が帰った後の病室は急に静かになり、さっきまで皆が飲んでいたジュースのグラスを洗う音だけが響いている。
そんなヨンミちゃんの後ろ姿を見ていたら、どういう訳か涙が出てきた。
泣いているところなんて見られたくないので、ソッと布団に潜って寝たふりをしながら涙を拭いた。
『貴方、もう寝たの?』
「‥‥‥‥‥‥」
『もう寝ちゃったのね。
急に大勢で来たから、ヤッパリ疲れちゃったのかしら?』
「‥‥‥‥‥‥」
『ゆっくり休んで下さいね!
絶対に貴方を一人ぼっちで逝かしたりしませんから。
生きるのも逝くのも、絶対に一緒ですから。
明日は安心して、手術を受けてください。
それじゃあ、部屋の電気消しておくわね!』
と言って、病室の電気を消して小さなブランケットを手に病室の外に出た。
そのまま、詰め所横に有る休憩所に行き、背中にブランケットを引っ掻けてテーブルに向かって息子のチャンスと娘のハヌルに手紙を書き始めた。
照明が落とされた病室の中は、廊下から溢れてくる灯りのお陰で、仄かにうっすらではあるが明るく、ベッド横に有るサイドテーブルの上に有る水飲み用の蓋付きのストローのささったコップも良く見えた。
少し飲んで、喉のおくを湿らせてから、また目を瞑って眠気が遣って来るのを待っていた。
「さすがに、昼間ずっと寝てたから眠れないや!」
独り言が、広い個室の病室に溶けていった。
休憩所では、妻のヨンミが子供達へ書く手紙の文面が決まらず、ひとり唸っていた。
『もう、何て書いたら良いか分かんないよ。
え~ッと、子供達へ
お父さんが一人ぼっちで旅立つのは、寂しくてかわいそうだから、私が、天国まで付き添って‥‥‥‥‥
何か文章が陳腐よねぇ!
え~ッと
チャンスや ハヌルや
私は‥‥‥‥‥‥
駄目だ!
婆さんが書いた様な文面だし!
ヨシ!
愛する子供達へ
ごめんなさいね!
やっぱり私は‥賢主(ヒョンジュ)さんが居ないとダメみたい。
だから、あの人と一緒に旅立ちます。
ん~! 何か変なんだよねぇ。
いざ、書き置きしようと思っても結構難しいもんね。』
「ヨンミちゃん、何してるの?」
『貴方?
どうしたの?
寝てないとダメじゃない!
明日は手術なんだから。』
「なかなか眠れないんだよ。
ヨンミちゃんは何書いてるの?」
『貴方にもしもの事が有った場合の私の遺言って言うか書き置き?』
「何バカな事やってるの?
ヨンミちゃん、絶対に俺はこんな病気ぐらいで死なないから、そんなもの書くの止めなさい!」
口調はきついが、愛情たっぷりの眼差しで妻を見つめ、そしてギュッときつく抱きしめた。



