8月が終わり、9月になっても相変わらず蝉の鳴き声はうるさく、残暑厳しい毎日である。
山崎幸次郎は、結局9月5日の日に退院して、肩口の抜糸はその1週間後であった。
頭の方の抜糸は、退院するときに既に終わっている。
9月半ば過ぎても毎日リハビリで、イクチャン(木村アナ)も時間の許す限り付き添っていた。
彼の自宅には、トレーニングルームが有り、そこをリハビリルームにしている。
小さい頃からの幼なじみだから、山崎幸次郎の家族とも仲が良く、幸次郎の1つ上の姉の幸乃(さちの)とは、幼稚園から高校までずっと同じで、まるで姉妹の様にいつも一緒に遊んでいたくらい仲が良い。
だから、心配して駆けつけてきた幸次郎の家族は、当たり前の様にイクチャンに息子を任せていた。
それを遠目に眺めて、将来の息子の嫁に
とほくそ笑みながら、二人を邪魔しないようにと、直ぐに実家に帰って行った。
『山崎君、傷まだ痛む?』
「うん。
メチャメチャ痛い。」
と言って、手に持っていた10kgのダンベルが、手から床の上にドスッと落ちていった。
驚いたイクチャンが、
『山崎君!』
と叫びながら青い顔をして駆け寄ってきた。
そして、俺の腕に軽く触れる様に擦ってくれている。
「ゴメン!
イクチャン、冗談!
もう、ほぼ完治しているよ。」
と、はにかむようにイクチャンに微笑んだ。
が、イクチャンは、
『冗談言わないでよ!
メチャメチャ心配しているんだから。
代わってあげたいくらいなんだから!
まだ、あのニュースを観た瞬間のショック忘れてないんだから!
怖くて怖くて‥‥‥‥わ‥私‥‥もう‥‥‥山崎‥‥君が‥』
段々と涙声になり、何を言っているのか分からないけど、メチャメチャ心配してくれているのは凄い伝わってきた。
おれは、ソッとイクチャンの肩を引き寄せて、ギュッと抱き締めていた。
「心配かけて本当にゴメン!」
と言いながら、尚も彼女を抱き締めて小さなイクチャンの頭の上に顎を乗せた。
『心配過ぎて離れたくない。』
「俺は、好き過ぎて離れたくない。」
なんて、どさくさ紛れに告白していた。
心臓バクバクいっているのが分かる。
するとイクチャンからも、
『私のほうが、もっともっと好き!』
彼女が、真っ赤な顔をして必死で言ってきた。
だから、俺もしっかりと想いを伝えなきゃって思い、言葉を繋ぐ。
「ずっと言えなかったけど、初めて会ったときからイクチャンは俺の中で大事な存在だったんだよ。」
『ワタシだって、幸姉ちゃんにお願いして山崎君がどこの高校に受験するかとか、大学には行くのか?とか、行くんならどこの大学に行くのかって、いつも聞いて同じ学校に行けるように頑張ったもん!
在学中に、この会社に在籍するようになった山崎君と同じ職場に成りたいが為に、アナウンサーを目指したんだよ。』
「知ってた!
姉貴が教えてくれた。」
『だったら何でもっと早く‥‥‥‥‥‥』
「自信が無かったから!
ホントに俺みたいな役者バカで良いんだろうか?とか、俺がイクチャンを幸せにしてあげれるのか?とか、考えれば考える程不安になるし。」
『そんなのワタシだっておんなじだよ。
友達のまま終わっちゃうんじゃないのか?とか、幼なじみじゃ恋愛対象じゃないんだろうか?とか、そんなの事ばかり考えていたら、25年も経っちゃったし。』
「そうだね!
イクチャン、いつまでも俺のそはにいて欲しい。
結婚してくれるかい?」
『はい!』
リハビリも終わり、10月2日
遂にドラマ "尾張の虎" 撮影が再開となった。
年内にどうにかクランクアップして、年明けの1月7日から、尾張の虎・第一部1クール(3ヶ月間)の放送が始まった。
そして本日 1月23日
役者の山崎幸次郎と木村郁美アナウンサーの結婚報道が、新星MUSIC日本支社の1階の大ホール内に300人以上の記者の前で行われている。
去年の小柳杏奈アナウンサーと桧山隆一タレントマネージャーの結婚報道の倍の人数に驚いている。
独身生活を卒業する二人には、新たな世界が待っていると、白川GM(ゼネラルマネージャー)が祝福の言葉をのべた後、二人に色々なインタビューがあり、約二時間の記者会見が終わった。
この模様は、生放送でオンエアされ、なんと視聴率は30%近くあったそうだ。