その棟にも、しっかりと施錠されていたが、力を使って難なく開けることが出来た。


皮の手袋を嵌めて、扉を開け中へ潜り込んだ。


立て込みの途中のセットが、まるで棟上げ前の一軒家の様である。


奥の一画には、小道具も置いてあり、日本刀や脇差しや兜、かんざしや火鉢や掛軸など、骨董品屋さんのようにところ狭しと置かれてあった。


それらを見ているとき、ふと人の気配を感じて小道具部屋の裏に隠れて息を殺した。


カチャカチャと言う乾いた音の後、カタカタいいながら扉が40cm程開き、外からの日の光が棟のなかをうつしだした。


逆光のため、その人物の顔は見えなかったが、流れ込んできたのは間違いなくあの男の感情である。


何度となく感じたこの感覚、ドロドロとした暗い陰湿な感情の塊が、俺の脳裏にまとわり付いてきて気分が悪くなる。


俺は、侵入してきたその男の頭の中へ直接命じた。


"電気を付けろ!"


そうしたら、数秒後にパチッと棟内の灯りが点り、侵入者の顔を映し出した!


やはりあの写真の男であった。


再び、


"今から今回の件について全て話せ!"


と男の頭の中へ直接命じた。


すると男は、独り言の様に話し始めた。


『私は門田慎吾。

我が女神、麻生優理子様にお仕えするシモベである。

女神様に近づくアシキ人間からお守りするために、私は存在する。

市村巧己は、我が女神に害為す存在故、成敗せねばならない。

それが我が使命である。』


なんと、この男はイカれている!


これじゃ、まともな話しなんて出来ないだろう。


俺は、もう一度この男の頭の中へ直接命じた。


"お前は今から警察へ行き、お前のやった事を詳しく警察で話ししろ。

そして、全てが明らかになって刑に伏しなさい。

刑期を終えて出てくるときには、麻生優理子のことは全て忘れているであろう。"



こんな事で上手くいくかどうか分からないけど、毎回こんなんで成功しているから、大丈夫だろう。


もし駄目なら、次の手を考えれば良い。


取り敢えず、これで様子を見よう。


この門田慎吾と名乗った男は、その日の内に出頭して、緊急逮捕となった。


テレビでは、ストーカー事件の延長での犯行と、アナウンサーが精神科医や元刑事を招いて連日の大騒ぎである。


だが、何故犯人が突然自首して来たのかは謎だと言っている。


アボジ(親父)からは、


『あまり、極端な遣り方をしない方が良いぞ。

変な疑いや探りを入れられたくないからな!』


と言っているので、


「そうなれば、警察の方にも力を使って難なく切り抜けてみますよ!」


と、調子に乗って言ってしまった。


勿論、無駄な力の使用は避けなければいけないし、もしも他人に力の事をバレてしまったら、とんでもない大騒ぎになって仕舞うのだからと、アボジ(親父)にこっぴどく叱られて仕舞ったのは言うまでもない!