通された待ち合い室に座り、出されたコーヒーをのんでいた。
壁には、所属タレント達の写真が何枚も並んでいる。
ここジェームス事務所に在籍しているのは、12才から30才までのアイドルと呼ばれている男性タレントたちである。
30才を過ぎたら、自動的に森プロダクションに移籍させられるのだ。
森プロダクションのオーナーは、ミスタージェームスの妻の森栄子である。
何故移籍させるかというと、ジェームス事務所はヤングアイドル集団を売りにしているので、30才を越えたり妻帯者になったらイメージ的にダウンしてしまうと言う森栄子の持論である。
逆に、森プロダクションの方は、若手から大御所まで男女問わず様々なジャンルで活躍している。
森プロダクションの森栄子は二代目のオーナーであり、栄子の父親が初代オーナーである。
以前、父親と共に訪れたブロードウェイ。
そこで、ショービジネスの世界に入りたての栄子がジェームスと知り合ったのである。
その当時、アシスタントプロデューサー(AP)をしていたジェームスに恋をして、遂には結婚して日本へ連れ帰ったのだ。
婿養子のミスタージェームスは、妻の財力でプロダクションを出させて貰った。
それが、ジェームス事務所である。
正式名称は、
ジェームス・ミュージック・エンタープライズ(JME)と言うのだが、ジェームス事務所って言うほうが良く使われている呼び名である。
そんなことを考えていたら、待ち合い室にミスタージェームスと市村巧己が入って来た。
『いやぁ、お待たせしました。
私が代表のジェームス森です。
そして、彼がうちのトップアイドルの市村巧己です。』
「はじめまして、市村巧己と申します。」
『はじめまして。
XYZのギタリストのチャンスと申します。
新星MUSICの常務取締役を兼任しております。
今日は、社長の代理と言う形で参りました。
まずは、今回の事故でうちの山崎幸次郎が怪我をして、撮影が中断してしまい申し訳ございません。
そちらの市村巧己さんのスケジュールに支障をきたしていまい、ご迷惑をお掛け致しました。
違約金として、後程わが社の方からご連絡させていただきますので。』
「違約金なんて!
そんなものは必要ありません。
こちらとしても、うちの市村を庇っての怪我と聞いております。
お礼を言わなければいけない立場なんですから。」
『分かりました。
それから、入院先にお見舞いにも来て頂きありがとうございました。』
「私どもがお伺いした時には、まだ意識不明でしたもので、心配しておりました。
昨日、意識が戻られたと連絡がありましたので、ホッとしました。」
『まだ予断は許さない状態ですが、山崎の強靭な回復力で、どんどんと回復していってるそうです。
病院の方からも、今月中に退院出来ると言っておりますし、リハビリも有りますので、来月末には撮影が、可能かと思います。』
「そんなに早く復帰して大丈夫なんですか?」
『ご安心下さい。
彼の回復力は半端無いですから。
ところで、警察の方から連絡がありましたが、今回の犯行は市村巧己さんを狙っていたという可能性が高いそうです。
何かここ最近、変わった事は無かったですか?』
「無いって言うか有るって言うか‥‥‥‥‥‥」
『ずいぶんと歯切れが悪いですねぇ!
一体何があったのですか?』
「実は、こんなものが事務所に届いているのですが‥‥‥‥‥」
『こ‥‥‥これって!』



