桜田企画に到着したのは、深夜3時を過ぎた頃である。
こちらも撮影所同様、人気は全く無かった。
機材を搬出したりする裏手の駐車スペースには、トラックが何台も駐車してあり、表に回って窓の方に目を向けると事務所内は真っ暗で、人の気配も感じられなかった。
正面玄関入り口のノブに触れてみたが、撮影所で見たビジョンの男の残留思念は感じられなかった。
仕方がないので車に戻り、今日は帰ることにした。
帰宅してシャワーを浴びてベッドに潜り込んだ時には、朝方の5時近くなっていた。
今日は仕事がオフだから、昼過ぎまでゆっくり寝るとしよう!
って思っていたのに、朝10時前に電話で起こされて仕舞った。
『チャンス、おはよー!
ぐっすり寝れたかなぁ?』
朝からテンションの高いアボジ(親父)の声にイラッとしながらも、
「おはようございますアボジ(親父)。
朝早くからどうしたんですか?」
『ジェームス事務所に連絡いれておいたから。
今日の昼1時に、
赤坂のジェームス事務所に宜しく!
ジェームス社長と市村巧己が待ってるからね!
じゃあ、そういう事だから、後の事は宜しく!』
「分かりました。
それから、撮影所で面白い物を手に入れたので、後で会社の方に持って行きますね。」
『面白い物って?』
「今回の事件の犯人の写真です。」
『そんなもん、どうやって手に入れたんだ?』
「それは後程お話しします。」
『分かった。
それじゃあ昼までに会社の方によってくれ。
午後から銀行の頭取と借入金について話し合いがあるから。』
「アボジ(親父)、もしかしてまた銀行からお金借りたの?」
『まさか!
この間、株の買い占めが有ったあろう?
あの後の買い戻しに5000万円借りたろ?
あれが今月で完済するから、また新たに借りて欲しいんじゃないかな?』
「それじゃあ、必要の無いお金は借りないで下さいね!」
『そういう訳にもいかないんだよ。
常日頃から、銀行の頭取と仲良しだと良いことが有るんだぜ。
この間の買い戻しの時だって、電話一本入れただけで5000万円を直ぐに用意してくれたじゃないか!』
「確かにそうですが、無駄遣いはしないようにして下さいよ。」
『分かってるって!』
「それじゃあ後程。」
と言って、俺は電話を切ってからシャワーを浴びに浴室へ向かった。
11時ごろ、新星MUSIC日本支社に到着した。
直ぐに社長室に行き、写真をアボジ(親父)に見せた。
『これがさっき言ってた犯人の写真か!
さぁ教えてくれ。
一体どうやって撮影したんだ?』
「昔、良くテレビの超能力ショーで流行った"念写"って言うのをやってみたんです。」
『念写?』
「はい。
事故のあった撮影所の照明機材の設置部分が、何者かによって金属切断用のカナノコで切られていたんで、その切断部分にふれてみたんです。
そしたら、凄い憎悪を抱いた男性が照明機材に細工をしていたビジョンが見えて、そのビジョンをポラロイドカメラに念じてシャッターをきったんです。
そしたら、こんなにキレイに写し出されてました。」
『お前の力って限度がないくらい凄いなぁ!
良くもまぁ、こんなことが出来たもんだ。
やっぱり、何度となく練習したんだろう?』
「いいえ!
何となく出来そうな気がしたので、遣ってみたら出来たって言うか、成功したって感じです。」
それを聞いたアボジ(親父)は、つくづく呆れ返っていたが、そのポラロイドカメラで念写した写真を見ながら、プロファイリングをしていた。
これはアボジ(親父)の特殊能力の1つで、物に残る残留思念なんてのは読み取れないが、写真に写し出された人物の顔から、その人物のデータが断片的ではあるが読み取れるのだ。
俺にはそんな力が無い。
アボジ(親父)は、この力の事をプロファイリングと言っている。
言葉の通り、写真から能力を使ってプロファイリングするのだから。



