アボジ(親父)からの依頼で俺は今、人気の無い撮影所に来ている。
事故から2日経った現在も、立ち入り禁止のテープが張られており、入り口には鍵が掛かっていた。
俺は、封印の指輪を外してポケットに仕舞い、左手を鍵穴にかざして頭の中で鍵が開くイメージをした。
すると、カチャッと乾いた音とともに撮影所の入り口の扉は難なく開いた。
指紋が残らない様に皮の手袋をして、扉を押し開いて中へと潜り込んだ。
事故が起きた場所は、まだ山崎幸次郎の流した血の後が生々しく残っており、それを見るとドキッとするほど大量の血を流したのが見て伺えた。
そのちょうど真上辺りに見当を付けて、上に上がって行った。
上には、幅30cm程の足場があり、その足場を渡って、照明機材が有ったであろう部分に手袋を外して触れてみた。
すると、そこからは毒々しいまでの黒い感情とともに糸鋸で照明機材に切り目を入れる男性のビジョンが現れた。
見たことの無いその男性は、一旦切り離した照明機材を再びその場所にピアノ線で取り付け、その線の端をセットの裏まで引き込み、後はタイミングを見て簡単に機材だけが落とせるように細工をしていた。
間違いなく故意に仕組まれた事故だと分かったけれど、その男性が誰なのかは皆目見当もつかない。
一旦、先程触れた部分の指紋を拭き取り、撮影所を後にした。
車に戻り、用意してあったポラロイドカメラを手にした。
俺の新たな試みである。
先程触れた時に見えたビジョンを思い出して、その時の男性の顔を頭の中でイメージしながら、その男性を撮影する様な感覚でポラロイドカメラのシャッターをきった。
飛び出てきた写真をしばらく眺めていたら、ビジョンで見た男性の顔が現れてきた。
大成功だ。
こんなに簡単に出来ると思っていなかっただけに、何だかちょっと嬉しくなった。
浮かれている訳にもいかないので、弛む頬を今一度引き締めてから、エンジンをスタートさせて、今度は撮影を担当していた音響や映像のエキスパート、桜田企画へ向けて走り出した。



