『アッ、藤本教授が戻って来られたよ。』


「教授!

お早うございます。」


『やぁ、高山君。

何か分かったのかい?』


「はい!

実は....私の勘違いでして、例の鶴海の同棲してるって言ってた。」


『勘違いって言うと?』


「昨日、鶴海宅におじゃまして話して来たのですが、出てきた女性って言うのが鶴海奏(かなで)さんって言って6才年下の妹さんでした。」


『妹さん?

じゃあ、女性関係もクリアって訳なんだね?』


「はい!

両親が亡くなって、親戚中をたらい回しされていたんですが、兄の秀夫さんがちゃんと働き出してから妹さんを呼び寄せて一緒に暮らし始めたそうです。

妹さんが、両親の事故のショックから失語症になってしまって、仕事にも着けないので、兄の秀夫さんが面倒をみているのだそうです。」


『良く調べてきたね!』


「大家さんが話し好きで、いろいろと教えてくれました。」


『そうか。

助かったよ。

本当に忙しいのにありがとう!

これから娘とちゃんと話し合って、嫁に出す準備をしていくよ。』


「藤本教授、娘さんの幸せを祈ってます。

おめでとうございます。

結婚披露宴にサプライズで歌を歌いに行きましょうか?

休みが合えばの話しですけどね!」


『本当かい?

そうしてくれたら皆が喜ぶよ。』


「それじゃあ、結婚披露宴の日時が分かりましたら、連絡下さいね。

それでは失礼します。」


『ご苦労様。』


こうして、藤本教授の娘さんの秋菜さんとNATIVE GARDENのキーボード奏者の鶴海秀夫さんの交際もきちんと認められ、無事に挨拶も出来て結納や結婚式、披露宴とあいなった。


それから半年後、年が明けた1月も終わりに近づいた或る日の朝、


「ビデさ~ん!

ど~こ~!」


『秋菜、どうした?』


と言いながら、夫の秀夫はリビングにやって来た。


「あなた、産まれそう!」


その言葉を聞いた瞬間、秀夫はカウンターキッチンの中で蹲っている妻の秋菜の元へと駆け寄り、


『まだ1ヶ月先の予定なのに.....

間違い無く陣痛なのかい?』


「うん!

ちょっと前に何回かおさまったんだけど、段々と間隔が短くなっているの。

今は、8分くらいの間隔なの。」


『分かった!』


というと、あらかじめ用意してあった入院セットの入っているバッグを肩に担ぎ、妻の秋菜と共に車に乗り込み、隣町にある掛かり付けの産婦人科へと向かった。


10分もしない内に到着した近藤産婦人科では、あらかじめ連絡してあったので、看護師さんが車椅子を持ってスタンバイしていた。


「鶴海さん、間隔はどれくらいですか?」


『5分くらいだと思います。』


「それでは、すぐに分娩室へ入りますね。」


『よ---よろしくお願いします。』


「ご主人、立ち会いますよね?」


『エッ?

は はい!』


そして分娩室に入って1時間後、陣痛が一旦おさまったので、そのまま分娩室で昼食をとって、--------夕食もとって、いよいよ再開した陣痛が3時間続いたのち、ようやく可愛い女の子を出産した。


妊娠して260日での出産だ。


少し早産ではあるが、2580gの五体満足で愛らしい女の子。


二人で一生懸命考えた名前は


鶴海 美苑(つるみみその)


二人の宝物である。