その頃から、かなり腕の良い音響マンだったが、西条店長の下でしごかれて今じゃ本堂さんも認める程のミキサーである。


彼が居たから、本堂さんも安心してこのメインスタジオビルに移動出来たのだ。



そして今、音楽録音スタジオのブースで腕組みをしながら、厳しい顔で俺達の練習を見ているのだ。


アボジ(親父)は、右隣にあるミックスダウンスタジオで、昨日収録したKayaの音源をチェックしに出ている。


シン(天道君)は、左隣にあるマシーンルームでミキシング・コンソール用の 電源ユニットやコンピューター、そしてアナログ及びデジタルの各種録音機器を稼働させる為に出ている。


空調設備の電源などもそこで操作され、とにかくブースの中を静寂状態に保ち、余計な雑音が入らないようにしているのだ。


防音ガラスの中で、俺達のチューニングも終わり、ウォーミングアップが終わった頃、シンもアボジ(親父)もやってきて、いよいよ録音が始まった。


スタジオが変わっても、最新の機器が導入されても、録音方法は全く変わらない。


最初から、最後まで、ノンストップで最高の演奏が出来るまで終わらない。


気が付けば、最初の曲(Target)を撮り終えたのが昼過ぎの午後2時半である。


2曲目の(Infection)収録をする前に食事休憩が入った。


俺達は全員で近所にある台湾料理の麗郷(レイキョウ)にやつてきた。


皆で中華ランチを食べてまたすぐにスタジオに戻って録音した。


『食後せめて10分で良いから休憩が欲しいろ~!』


「だよな!」


『本堂さん、アボジ(親父)と休憩室で一服してこないのですか?』


「俺は今、禁煙中だ!」


『だから、最近いつもイライラしてたんですね?』


「イライラなんかして無いぞ。」


『ハハハ…

ところで、何でまた急に禁煙なんか始めたんですか!?

俺は母親の腹ん中に居るときからタバコ吸ってんだ!

今更、肺ガンが怖くて禁煙なんか出来るか!

って言ったのは何だったんですか?』


「いやぁ、一番下の娘がな、

パパのお口、タバコ臭い!
もうチューしてあげない

ってさぁ、俺に近寄っても来なくなったんだよ。」


『鬼の本堂さんも娘には勝てないって?

ヤッパリ娘の一言は大きいんだなぁ!

ウチのアボジ(親父)も、ソラからそう言われたら禁煙するだろうか、今度試してみようっと!』