新星MUSIC本社を後にした俺が、最初に向かったのは、SEMコーポレーションだ。


ソウル中心部に在るSEMコーポレーションの自社ビルは、タレントの血と汗と涙と努力を踏みにじりながら大きくなっていき、警備体制は、まるで巨大マフィアグループ顔負けな厳重さでそびえ立っていた。


俺は、スモークを貼ってある車の中から双眼鏡で100m先にあるそのビルの入り口を監視していた。


2時間程経った頃、中から黒塗りのメルセデスがゆっくりと現れた。


車内後部座席にSEMコーポレーションの宋(ソン)社長が見て取れた。


それを確認した俺は、自分の車をゆっくりスタートさせて、距離を空けてメルセデスを追尾した。


市内から南西に1時間走ったところで、宋社長の乗ったメルセデスは大きなビルの地下駐車場へと滑り込む様に入って行った。


表に居る若い男達は、どう見ても中国人だ。


胸元の不自然な膨らみは、多分22口径よりも大きな拳銃を忍ばせて居るのだろう。


彼等のビジョンを覗いてみたら、どうやら青紅会(チンホン会)の雇った用心棒のようであった。


俺は、彼等の内で一番兄貴風を吹かせている男の頭の中に直接話し掛けた。


『SEMコーポレーションの宋社長は、いずれあんた達を裏切る。

だから、先におまえ等が奴を裏切ったら良いじゃないか!

青紅会に有る麻薬を大量にSEMコーポレーションの宋社長に渡し、その後直ぐに警察に通報するだけでいい。

そうすれば、青紅会はSEMコーポレーションの罠にはまらなくてすむ。』


とデタラメな内容を。


しばらく様子をみていたら、その男は建物内へと入って行った。


しばらくすると、中からアタッシュケースを抱えた先程の男が現れた。