懐かしく思いながらも、今落ち込んでいる彼女には、言い返したりしない。



俺は、彼女をぐっと抱き寄せた。


いきなり抱きしめられて、驚いた彼女は腕の中で暴れているが、そんな事は気にしない。


そして、彼女の耳元で


「杏奈さん、貴女は素晴らしいアナウンサーだって事は、分かっているから!

貴女は今、一生懸命頑張っているから!

本番は絶対大丈夫!

間違い無く成功しますので。

俺が付いている。」


『な、何言ってるのよ?

ちょっと離しなさいよ!』


「嫌です!」


『どういうつもりよ。』


「杏奈さん頑張り過ぎ!

もっとリラックスして!

ミスなんか気にしなくても良いんだよ。

俺は、いつもの杏奈さんを観たいんです。」


『何訳の解らない事言ってるのよ?』


「ずっと貴女を見てきたんだ!

初めて会った時から、俺は貴女に惹かれています。

貴女を好き過ぎて、胸が苦しいんです。

だから、落ち込んでいる貴女を見るのは辛いんです。」


『な、何いきなりコクってんのよ?

私は、私は…あんたの事なんて……何とも思ってなんか無いんだから!』


と言いながらも、彼女は俺にしがみつくように抱きしめ返してきた。


本当に素直じゃないんだから。


やっとの思いで告白したって言うのに、何とも思ってなんか無いって、キツい返事だ。


言葉とは裏腹に、もう3分以上抱きしめられているけどね!


「杏奈さん、いつも通りで良いんだよ。

大舞台だからって気負いする事なんてないんだから。」


『うん!

ありがとう!』


「頑張って下さいね!」


『頑張れる気がして来た。』


って言って、ゆっくり腕を離した杏奈さんと目が合った。


俺は、優しくソッと彼女の唇に俺の唇を重ね合わせた。


最初、ビクッとなった彼女だが、受け入れてくれたので、次第に大人のキスへと変わっていく。


息が苦しくなる程の長いキスは、頭の芯を熱くさせる。


ソッと唇が離れると、彼女は恥ずかしそうに、下を向いたまま


『私もずっと好きでした。』


と、言ってくれた。