「あーっ、風歩ちゃん!ダメだよ、それじゃ。」
「……へ?」
「危ない危ない。手、切っちゃうよ?」
野菜を切ろうと、包丁を握った途端。
“監視”していたヤツに、横から奪われてしまった。
「ホラ。切るときは、左手はこう…猫みたいにして…」
言いながら、私の手をふわりと包み込んで。
「こうやって、押さえて切るんだよ?」
いつの間にか、私の背後に立っていた王子様。
まさに“手とり足どり”。
ぴったりくっついて指導する…格好になっていた。
ち…近いっ。
「いい?包丁の握り方は、こう。それだと滑って安定しないから。」
必然的に顔は近くなるし、声は耳元をくすぐるし。
密着度高くない?
料理って、実はすごく危険なんじゃ…
「な…なんで?」
ドキドキと波打つ鼓動をごまかすために、無理矢理話題転換。
「ん?」
「なんで、こういうことまでできるの?」
料理なんて…
お母さんは普通に専業主婦なんだから、やる必要なんて…ない、よね?
「あー…うちには、
“レディースデイ”があるから。」

