だけどもう、





後戻りは出来なくなっていた。




「柚奈?」



「あ……お兄ちゃん」



無理だ。


帰れない



帰りたくない



好きな人が



目の前にいるから………



「この子が妹さんの?」



ソプラノの



透き通った声が綺麗。




優しそうに目を細めて、

首を傾げ、微笑んだ女の人。




この人がお兄ちゃんの何かなんて、言わなくてもわかった。




幸せそうな二人を見て、
野次馬たちはこの二人を見て
誰もがきっと




"恋人"



そう呼ぶだろう。




「初めましてっ。飯豊咲良です!」



いいとよ………さくら




「亮君の……彼女です//」



頬を桃色に染めて彼女は言った。



「咲良って……呼んでね?」



ヤダ。


こんなのヤダ。




ソコハ



私トお兄ちゃんノ



2人ダケノ場所ナンダ。




アナタハダレ?







「いゃぁぁぁぁ―――――!!!!!!!」




そう叫んだ私は、手に持っていた革の鞄を彼女に投げつけて、その場から走り去った。





誰も追いかけてはくれない。





一人で





涙をこらえ





行き先もわからず





無心のまま




ただひたすらと




走りつづけた。







ゴメンナサイ。



サクラサン



ゴメンナサイ……



ゴメンナサイ






お兄ちゃん…………