「パパー、おやつー…これ、ならやまりゅうき?」
「おかえり、蓮司。そうだよ、よくわかったな」
親父は結構売れている小説家でほとんど自分の部屋で仕事をしていた。
そいて仕事の合間によく楢山龍希のCDをかけていた。
「この曲、初めて聞いた。」
「これは、ma Cheriっていう曲なんだ」
「ましぇり?」
「フランス語で愛しい人って意味なんだ」
「いとしい?いとしいってなに?」
俺がそう聞くと親父は困ったように笑った。
「うーん。とっても大事ってことだよ。パパにとってはママと蓮司のようなことを言うんだ」
「ふーん」
そのころ小学3年生だった俺には当然理解できなかった。
「この曲は楢山龍希が自分の娘のために書いたんだ。これからずっと守っていくよっていうメッセージをこめてね」
「でも、死んじゃったんでしょ、その人。」
俺がそういうと親父は悲しそうにそうだね、と笑った。

