バッと後ろを振り返るとそこには彼…鍵谷蓮司がいた。

逃げちゃだめだ、放っておこう。


「ねぇ、なんで自分の父親のこと誇りに思わないの…?」


彼は私に優しく尋ねた。

何も知らないあの人のことをなんで私が誇りに思わなければならないの…?


「私あの人のこと何も覚えてないの。だから誇りに思うなんて…」

「覚えてなくても知ってるはずだよ。だってあの人はあんなにもきれいな歌を…」


真剣な表情で彼が私に詰め寄ったその瞬間教室のドアが開いた。

ドアを開けたのは部活のユニフォームを着た快だった。


「あれ…シェリ…って蓮司も?お前バスケやるんじゃなかったのかよ?」

「あ、うん。忘れ物して取りに来たらシェ…楢山がいたから…ちょっと、話してたんだ。」


そっか、とちょっと困惑した表情の快はちらりと私を見て、わずかに震える私の手を優しく包み込んだ。


「俺ちょっとシェリに用事あるんだ。もういいかな?」


快は彼とも仲いいのに…気まずいよね、ゴメンね、快。


「あ、うん。でも最後に一つ。」


そういった彼の顔はさっき同様真剣だった。

そして快も少し焦ったように微笑んだ。