佐藤さんはふふっと笑うと挑戦的に言ってきた。
「迅に甘えられないんだろ?」
あたしは急いで俯くと口を紡ぐ。
そんなあたしの顔を覗き込むと、痛いところをついてきた。
「んーで、海ちゃんにでも妬いてるってとこか?」
ずばり図星だった。
あまりの図星にナイフで突き刺されたような衝撃が体中に走った。
なんだか分からないけれど、佐藤さんが言ったのと同時に涙が溢れ出してきた。
堰を切ったように溢れ出す涙は止まらずに頬を伝って床に落ちていく。
「図星だな」
そう言うとあたしの手からナイフとリンゴを取り、あたしの後頭部に手を回すと自分の胸へと引き寄せた。
トンッとぶつかるあたしの額と佐藤さんの胸。
迅とは少し違う感触、温度。
佐藤さんはあたしを抱きしめるわけじゃなく抱き寄せるだけらしく、あたしの背中に手を回そうとはしない。
その遠慮がちな手から流れてくる優しさが、余計にあたしの心を震わせる。
今まで我慢をしていた気持ちが涙として溢れ出す。
1人で抱え込んでおくなんてあたしには無理だった。

