「………っ」
あたしは胸の前から手を退かし、ゆっくりと迅さんの背中に腕を回す。
そんなことをしたことがないあたしは、ドキドキと緊張しているせいで腕が震えている。
〝嫌だ〟そう言えば良かったのに、なぜかあたしはそれが言えなかった。
何だかここにいる迅さんはすごく小さく見えて、抱きしめてあげたくなってしまった。
「………」
無言の空間が凄く苦しい。
背中に触れる。
あたしの手と手がギリギリ迅さんを囲んで掴むことができた。
男と女の違いに驚いた。
見た目は細身に見えるのに、触れてみると大きくて楽勝に抱きしめることなんてできなかった。
あたしはいっぱいいっぱい手を伸ばす。
けれど迅さんはあたしの背中に手を回しても楽勝そう。
…何だこの差は。
ちょっとムっとした。
意味もなくムっとした。
だって、何だかあたしだけいっぱいいっぱい頑張ってる気がしてならない。

