「お前さぁ…」



ソイツは小さくため息を零すと、




「少しくらい静かにできねぇわけ?」




そう言うと片手であたしの両手を掴み、そのまま後ろに押し倒した。



いきなりの事に踏ん張れなかったあたしは、されるがままに後ろに倒れる。


背中にシートの感触を感じたとき、ゾっと背筋に冷たいものが走った。



ソイツはあたしの上に四つん這いのような状態で上からあたしを見下ろす。



両腕は未だ掴まれたまま。


片手だから簡単に離れられると思っていたのに上手くいかない。



これが男と女の差なのか、と痛いほど思い知らされる。



ソイツの目が伏し目がちになる。


ドキンっと激しい音をたてて心臓が跳ねた。




それと同時に感じた―――恐怖。




津波のように押し寄せてくる、言い表せない黒い渦。


バクバクと激しく鳴る心臓は、壊れた玩具のように音をたて続ける。