トイレのドアを押そうとドアノブに手を掛けた瞬間、

まだ力を入れていないのに押されたドアに、少しだけ体制を崩す。


「きゃっ」


軽く前のめりになりながらも体制を戻して、顔を上げると知っている姿があった。


「あら、つくしちゃんじゃない」


「知美先輩…」


びっくりして固まる体。


「偶然ね。まさか同じお店だったなんて」


ふっと笑う知美先輩に、ハッとする。


そうだ、知美先輩もカラオケ行くって言ってたもんね。


「そうですね」


改めて立ち直して、にっこりと笑う。


もう空とは何もないんだ、と思えば知美先輩と接する時も笑顔になれた。