こんなはずじゃなかった。
お父さんが大事な書類を忘れたから、それを届けに行っただけだった。
『雨が降るなんて聞いてないよ一一一…』
私はとぼとぼと足を進める。
『あれ?もしかして傘ないの?』
『入れてあげよっか?』
声をかけて私の顔を覗き込む男二人。
『…大丈夫です』
『そう言わずに入って行きなって。濡れるよりましだろ?』
『大丈夫ですから』
『いいだろー?ほら』
何度離れても無理矢理肩を抱き寄せられる。
『…嫌だってば!!』
『おいっ待て!』
『追い掛けろ!』
持っていた鞄でお腹を叩き、急いで走って逃げた。
『一一一はぁはぁ』
人混みに紛れ、男たちが去って行くのを横目で見る。
ほっとして人混みを抜け、近くの建物の屋根に隠れ雨宿りをする。
雨の中無我夢中で走ったから体はびしょびしょだ。
一一一怖かった
『傘…ないの?』
声をかけられびくりと体を震わせる。
またさっきの人…?
やだ、怖い。
そう思い走り去ろうとした時。
『うわ、びしょ濡れじゃん!これ使いなよ』
そう言ってその男はさしていた真っ黒な傘を私に差し出した。
『え…でも…』
『俺は折りたたみがあるから平気。君は何も気にしないでそれをさして帰りな?』
その男の人はそう言って、無理矢理傘を私の手に握らせ、雨の中消えてしまった。