甘い恋には遠すぎて



夏稀がお客にコーヒーを運ぶ為に俺の横を通り過ぎていく。



その時、微かに香った



ファーレンハイト(香水)……



夏稀が俺にプレゼントしてくれた香水。


そして女物の甘ったるい匂いは嫌いだからと自分もいつもつけていたっけ。


今も変わらず……か。


よく夏稀に怒られたっけ、そんなにつけたらダメよっ!臭いし!って。


まだ夏稀がこの香水を使っていることに、少しだけ俺は甘い期待をしていた。


ひょっとしたら、俺の前から消えたのには深い理由があるからなんじゃないかって。


どうしても言えなかった理由が……。




『時間!!』




不意に肩を麻由子に叩かれた。慌てて俺は、ソーサーの下に千円札を一枚置いて、店を出た。