あの日、一臣さんは


『ナツキ』と呟いて、私の前から走り去っていった。




いくら天然の私でも、ナツキというのが、女の人だという事は、すぐにわかった。





私の恋は、はじまる前にどうやら終わってしまったようだ……。


その場に残された私は一臣さんの走り去る背中を見つめる事しかできなかった。



……このままでいいの?

……何にもしないまま終わらせていいの?


まだはじまってもいないのに。



終わりって決めつけるにはまだ早過ぎない?





どうせここで終わるなら、悪あがきしたって……




手の中で一臣さんに渡されたアイスコーヒーの氷がカランと音をたてた。




私は、思わず小走りに一臣さんの後を追ったんだ。