外が明るくなってきた頃、

桐生さんは病室にやってきた。

「おはようチセ。起きてたの?」

昨日の口論の後を微塵も感じさせない。

「はい。何か早く起きちゃって・・・。」

それ以上会話が続かなかった。



今日気付いた事がある。


私のベットの後ろにある棚には


20冊近くの文学作品が並んでいる事を。

そしてひっそりと端に8冊の大学ノートがある事を・・・。


私はしばらく眺めていた。

ヘルマン・ヘッセ

ディキンソン

芥川龍之介

太宰治

ドストエフスキー



「チセ、それは毎日桐生さんが眠った貴方に読み聞かせていた本よ。」


不意にお母さんが話しかけてきた。



ずらりと並んだ本。

3年間でこの本の量は

毎日毎日私と一緒に居てくれた証。


桐生さんは何も言わず無表情だった。




「毎日、話しかけたら脳に刺激がいくかなって思って。」



お母さんはそう言った。






桐生さんは自分では言わないけれど、

私を凄く凄く愛してくれているんだと

改めて私は感じた。