「・・・分りました。作家活動を再開しましょう。」

静かに桐生さんは続けた。

「条件があります。それをお義母様とお義父様には守ってもらいます。いいですか?」

「ええ。いいわ。」

お母さんは即答した。

「第一に僕はチセを最優先します。第二にもう僕がチセをこれからも助ける事に賛成してください。」

「分った。」

お父さんが答えた。

それで話は終わりを迎えた。

静かに誰かが出て行った。



私は人の気配がなくなった病室で

記憶を思い出そうとしていた。

でも、

どんなにかんばっても出てこない。

思い出せない私の記憶。

一体、私はどんな人で、

一体、どんな人生を送ってきたのだろう。






私は暗い海の底。




光が届かない海の底。



水の泡の中に私の記憶。


摑もうとしても記憶の泡は割れてしまう。



ここは暗い海の底。


私の記憶は

摑もうとしても摑めない。

私の記憶は逃げてしまう。


お願い。

記憶よ戻って!!

チセ思い出すのよ!!

私は何度ももがいた。

歯痒い、どこにも向けられない怒りだけが私を締め付けた。


お願い・・・記憶を思い出すのっ・・・。



涙が止まらない夜だった。