「え、いや…い、いないよ!!」




湊君から視線を外して膝の上を見つめると、頭上からチッと舌打ちが聞こえてきて





「きゃっ!!」





いきなり引かれたのは私の右腕。




それに合わせるようにして私の身体がグラリと揺れた。






「ちょっ…ちょっと何するの!?」





もちろん私の腕を引っ張ったのは湊君で、そしてあり得ないほど近い距離に思わず目を見開く。




近いから!顔近すぎるから!!




男の子とは思えないほどのキメ細かい肌に、整った顔立ち。そして色素の薄い瞳が私を見下ろす。





「婚約の事は黙っててやる。そのかわり、お前は俺に貸し一つだからな」






ゆるりと口角を上げ、意地悪そうに笑う湊君に思わず目を奪われる。





その瞬間掴まれていた腕がいきなり離れ、後ろの窓ガラスへと後頭部を強打した。





「痛ったぁ…」






「アホ」





「いきなり離したのは湊君でしょ!」






ぶつけた頭をさすり涙目で湊君を睨む。







だから私は気が付いていなかった。






「まぁ、バレるのも時間の問題だと思うけど」そう密かに笑い呟いた湊君の言葉に…