私の目の前では信じられない光景が広がった。



額に手を置かれた中年の男の手先、足先がぼんやりと光り、消えていく。



数秒のうちに中年の男の腕と足は消え、みるみるうちに胴体も光になり、消えていく。



首から上だけになった中年の男は「…ろこ。」と小さく何かを呟いて、最後には消えてなくなった。



中年の頭のあった場所に手を差し延べたまま、静止する若い男。



私は恐怖で逃げる事もできずにその場にへたりこんだ。



しばらくして、若い男は手を下げ、高いビルの隙間からうっすらとのぞく雨が降り注ぐ空を見上げた。



私がガタガタと震えていると若い男は私の方向いた。



男は全身黒ずくめで髪も深い漆黒だった。



しかし、瞳だけは幻想的に輝く銀色をしていた。



私の方を向いていた男はしばらくすると背を向け、去って行った。



私には気付いていなかったようだ。



私はホッとして全身の緊張が抜けたのを感じた。