その日は激しい雨が降っていた。



急に降り出した雨に傘を持たない私は逃げる様に家路を急いだ。



いつもは滅多に通ることのない路地。



狭い路地なので、この雨風を少しでも避けられるならと飛び込んだ。



気味の悪い薄暗い路地だが、あの激しい雨にうたれるよりはマシだと自分に言い聞かせ突き進んだ。



すると人通りなど全くないと思われた路地の私の進行方向に人影が見えた。



走るのをやめ、ゆっくりと人影に近づいた。



何だか争っているような雰囲気だったので私は物影に隠れた。



一人は中年の男、もう一人は若い男だった。



雨音でよく声が聞き取れない。



「……まだ……たくない。」



「……まと………も……るんだ。」



「………るな。やめ…………。」



脅されているのか、中年の男は尻餅をついた。



若い男はツカツカと近寄り、中年の男に手を差し延べた。



危険な場面に遭遇してしまった私の心臓は胸を突き破らんばかりに高鳴った。



若い男は差し延べた手を中年の男の額にのせた。



もはや中年の男は悲鳴に近い声で言葉を発していた。