スマイリー

「岩瀬さんに聞かれたらなんかまずそうだったんで」



正樹は突然廊下まで先輩を引っ張り出してきてしまったことを、ぞんざいに詫びた。



「機転が利くじゃあないか」



「で?」



そんなことはどうでもいい、とでも言いたげに、正樹は勝手に本題に入った。



「俺に何をしろと」



「沙優ちゃんが幸せな高校生活を送れるように助力を願いたい」



進の即答に、やれやれ付き合い切れないよ、と、正樹の表情がえもいわれぬ苦笑に変化していく。



「2つも年上の先輩にこんなこと言うとあれですけど。先輩お人好し過ぎますよ。受験も近いのに、何やってるんですか」



もっともだ。至極もっともな意見だ。ただ、正樹が難色を示しているわけでないことは見てとれた。



「ばか。受験どころの話じゃあない。これは人権問題だぞ」



人権問題。そう、いじめに発展しかねん状況だ。いじめは世界的問題である。



正樹は、なにもそれをまるまる無視して勉強しろとまで言っているわけではないのだが、今は正樹を説得するために少々大げさに主張してみる。



「世界の正義をないがしろにしてまで守る利益なんて虚構にすぎないぞ、正樹」



「…マジで言ってます?」



病人を見るような目で眺めてくる正樹に、進は自信をもって言い放った。



「大マジ」