スマイリー

「あきらっ」



学校の正門が見えてきたころ、こちらに向かって進んでくる影があった。



「松本。おはよう」



松本美紅。有華の友達だ。進は、彼女のせいで有華の家に単身乗り込む羽目になったことがある。



「前島くんも一緒ね。あ、沙優じゃないの」



「美紅先輩!」



周囲の目をはばからず、軽快に抱き合っている姿からして、どうやらふたりは知り合いのようだ。



「…ていうか、お前なんで下の名前で呼ばれてるの?」



進は小声であきらに尋ねた。



するとあきらは苦笑して肩をすくめた。



「…分からん。そのうちお前も呼ばれるぞ」



「なんであきらたちと沙優が仲良く登校して来るのよ」



美紅が3人に向かって尋ねた。だが、進にはその口調から何となく、あきらが中心的に責められているように聞こえた。



「お、俺はさっき合流しただけだぞ?ふたりは電車からずっと一緒だった」



あきらも、自分だけが責められているように感じたのか、弁解じみた説明をしている。



「ああ、たまたま電車が一緒になったんだよ」



あきらの助けを求めるような視線に反応して、進は正直に説明した。



「そうじゃなくて。なんで知り合いなのかが聞きたいの」



美紅が少し怒ったように問いただした。またも、あきらだけが怒られているような形になった。



「この前、ゲーセンで会ったんだよ。色々あったんだ、そこで。なぁ、進?」



「あ、ああ、そうだ。その通り」



「…怪しい」



言っていることは間違いではない。だが、不良グループに腹を立て、そのうちのひとりの後頭部にボールを思いっきりぶつけてやったところ、結果的にたまたま沙優と淳也を助けたことになった、だなんて、言いにくい。



「美紅先輩。あたし、本当に進先輩とあきら先輩に助けてもらったんです」



慌てて沙優もふたりの言い分を支持した。



「ふぅん。沙優が言うなら信じますか」



まだ腑に落ちない様子ではあったが、美紅はそう言って笑顔になった。