スマイリー

駅前のコンビニを横切って、3つ目の信号を左に曲がり10分ほどで学校に着く。



「あ、俺コンビニ寄ってくから」



「じゃあ、あたし外で待ってますね」



「先行ってもいいよ?噂の種が増えたらまた色々なりそうじゃないか」



「大丈夫。こんな時間に1年生なんていないし。もうちょっと話も聞いて欲しいんです」



そう言って沙優は明るく笑ってみせた。なんとなく作り笑いのような感じがした。



「…あたし、こんなことあんまり人に相談できないんですよ。男の子のことなんてなおさら」



沙優は笑っていたが、今度は口元が少し微笑んでいる程度だった。



その消え入るような声は、進の心を沈み込ませるほどの、悲しいトーンだった。



「…分かった。じゃあ、すぐ戻るから」



そう言って進はコンビニに入店した。



沙優は口では言わないが、大分つらい思いをしているのではないか。進はそんな懸念を持った。



高校に入ってまだ半年。気の合う仲間は少なからずいるだろうが、異性がらみの相談をするのは怖いのだろう。



女の社会には詳しくないが、表と裏が男よりもずっとはっきりしていることくらいは進にも分かる。



よからぬ噂をたてられている中で、人気のある淳也の話をするのはやはり何かと危険が伴うはずだ。



そういう意味では、進という存在は、沙優にとってちょうどいい距離を持った、最も相談しやすい人物と言えるのかもしれない。



「…大崎が俺に相談したのも、多分そんなような理由だな、きっと」



少し寂しくなった進は、ホットミルクティーを手早く選んでレジに並んだ。



「ま、それでも少しは信頼されてるってことだよな」



そんなことより、今は沙優だ。かわいい後輩のために、ここはひと肌脱がない訳にはいかないだろう。