「進、聞いてるか?」
肩を叩かれて、進は現実に引き戻された。
「あ、ああ」
「これは俺の私見だけど、いくなら早くいけよ。あいつ、競争率高いから」
「まるで商品だな、大崎」
「そんなようなもんだぞ、実際。この秋発売の限定モデルみたいな」
「ははは」
進の笑い声をかき消すように、電車が来たことを告げるアナウンスが流れた。ふたりは立ち上がり、改札を抜けてホームへの階段を上り始めた。
「でも、これは真面目な話だからな、進。お前志望校は全部県内だろ」
「そうだけど」
「大崎は十中八九県外だぞ。あいつ頭いいから多分国公立の中でも相当上の方狙うだろうし」
冷たい風が階段の下から昇ってきた。進たちの背中をいやというほど押し上げると、勢いよくホームに抜けていった。
上を見上げると、ホームの屋根の隙間から、あのどす黒い夜闇が大口を開けて進を待っていた。

