スマイリー

「ああ、今日は波瀾万丈だったな」



あきらが身体をさすりながら夜空を見上げた。学ランを着てもやはり今夜は冷える。



恐怖や寂寥を象徴する夜の闇は、しばしば人の心を支配し、悩ませたり、あるいは落ち込ませたりする。



だが暗い夜道もふたりなら退屈しない。ひとりで色々悩む気分でないときは、なおさら好都合だ。



「まさか進があんなに怒るなんて。何が気にさわったんだよ」



「まぁ、良いじゃん」



非常に抽象的な要素が進を怒らせたのだった。立ち直って、再び折れ、また立ち直りかけた心。



あきらが立ち直らせようとしてくれた進の心に、間接的ではあれもう一度ヒビを入れた不良たち。



彼らが自分より頭の良い高校に通っていたことも進を激昂させる原因のひとつにもなっていたかもしれない。



ただ、そんなことのためにこんな事件に巻き込んだのだと、あきらには思われたくなかった。



かといってうまい理由も見つからなかったので、進にはうやむやにごまかすことしかできなかった。



「そういえば、最後なんで小林くんにあんなこと聞いたんだよ」



「そりゃあ、ふたりがあんまり仲良くなかったら沙優ちゃんとお近づきになろうと思ってね」



あきらは、本当に前向きだ。



前向きさを強く見せることで、あきらは進が起こした事件を肯定しようとしているのだ、と進は感じた。



進が負い目を感じないように、という、あきらなりの気遣いであるに違いない。