スマイリー

「やっと取れた」



手のひらサイズの子犬のぬいぐるみを持っている少女は、有華よりもさらに小柄だった。



制服を着ていないと高校生には到底見えそうにない。



「まだやってたの?相当使ったんじゃない?」



「うん、1000円は使ったかな」



少年の問いかけに対して、財布の中の小銭を数えながら少女が呟いた。



「あっ、すみません。これ、荷物です。助けていただいて、ありがとうございました」



少女はあきらの顔を見ると、肩にかけていた黒いスポーツバッグを慌てて差し出した。



「サンキュー。助けたのはこいつだよ」



「わっ」



あきらはバッグをもらうと、隣にいた進の背中をぐっと押した。



進はつんのめって少女の目の前まで飛び出した。至近距離で見ると、背は進の胸くらいまでしかない。



「岩瀬沙優(サユ)です。ありがとうございました」



沙優は深々とお辞儀をして、進の手を握った。



柔らかな感触とほのかな温かさが、進の冷えきった手を包んだ。



「あ、ああ。俺、前島。そっちは小島あきらね。君と、あー、その、彼は二人とも1年生?」



学ランの少年がずいっと前に出てきた。そのせいで沙優は進の手を離して少年の後ろに押しやられた。



「ちょ、ちょっと」



「小林淳也(ジュンヤ)です。ふたりとも1年ですよ」



淳也は進と無理やり握手をして、不機嫌そうに自己紹介をした。



「おいおい。分かりやすいな、あの少年」



あきらがにやにやしながら耳打ちした。