スマイリー

夜8時。今日の空も相変わらずどす黒い。ぼんやり眺めていると、今にも吸い込まれてしまいそうだ。



暗い夜道を、進はぶらぶらと歩いていた。



進とあきらは、財布と携帯電話以外の荷物を全てバッティングセンターに置いてきてしまっていた。



咄嗟に逃げ出したのが原因ではあったが、荷物を持って逃げていたら恐らく捕まっていただろう。怪我の巧妙というやつだ。



まだ不良たちが進たちを探している可能性が高いので、ふたりはそれぞれ別々の道を通って戻ることにした。



学ランを着るのも危ないというあきらの提案で、進はカッターシャツのままで歩いている。



汗はすっかりひいて、白いカッターシャツ一枚に吹き付ける風が、体を芯まで冷え込ませる。



ボールが不良グループの金髪男に命中したとき、彼らと進たちの距離は離れていたし、すぐに背を向けて逃げたので、顔は知られていない。



不良グループたちの頭の中には、「学ランを来た二人組」という犯人像が焼き付けられたはず。



彼らにしてみれば、大通りに出て人が増えた中で「学ラン」「二人組」という手がかりを隠匿した進とあきらを探すのは相当に困難だったようだ。



あきらの機転を利かせた作戦に、進は感心していた。




ゲームセンター内のUFOキャッチャーの前を抜けて、恐る恐るバッティングセンターへ続くドアを開けた。



不良たちの姿はなく、進はほっとした。



ところが、すぐに進はまずい事に気がついた。



荷物がない。



「やばい。どうしよう」



ベンチの下やその周り、他のベンチの上も探したが、ベンチの上に置いてあったはずの進たちの荷物は、逃走していた30分ほどの間になくなってしまっていた。



「ない、ない、ないぞ」



ひいていた汗が再び噴き出してきた。運動したときとは違う、イヤな感じの汗だ。



「マジでヤバイ。あきらに何て言おう」



「あ、あのっ」



途方にくれていた進の後ろに、不良たちに絡まれていた学ランの少年が立っていた。