スマイリー

夜道を駆ける進とあきらの背中を、不良たちの足音と怒声が執拗に追跡している。



「どうするんだよ、進!」


走りながらあきらが怒鳴った。



「大丈夫、走りには自信あるから」



「お前が自信あっても俺はないぞ!俺は陸上部じゃないんだからな」



「あ…そうか。どうしよう」



「ど、どうするんだよ?」


もう息を切らし始めているあきらを見て、進は焦った。



「…事の発端は俺だから、俺がボコられてるうちにあきらは逃げろ」



「やだよ!明日気まずいだろ!」



窮地に追い込まれてなお、漫才じみたやり取りを繰り返す自分たちが、なんだか可笑しかった。



徐々に怒声が近づいてくる。



狭い路地を曲がると、人通りの多い大通りに出た。



「やっと出られた。進、上着脱げ、上着!」



角を曲がった瞬間にあきらが叫んだ。相当疲れているのが見て分かる。



「なんで?」



「いいから!」



あきらはもう学ランを脱いでポケットから携帯電話を出していた。



「上着脱いだらそのまま俺から離れて。適当に座ってメールするフリ。俺は電話するフリ」



あきらはその場に立ち止まると、携帯電話を耳に当てた。



進はあきらを追い越して10メートルほど余分に走り、コンビニの前のゴミ箱の隣にしゃがんで携帯電話を開いた。



「進!上着、上着!」



あきらのジェスチャーと声で、慌てて学ランを脱いだ。



ちょうど不良たちが角を曲がってきたところだった。



「あっちだ!」



不良グループの4人が、嘘のようにあきらと進の目の前を走り抜けて行った。



メールを打つフリをしている進の手は、汗でぐっしょりと濡れていた。



あきらの方を見ると、脱いだ上着を地面に落として、へなへなと力なく座り込んだところだった。