スマイリー






「おい、ま、待てよ進。まさか」



進は大きく振りかぶって、さながらピッチングマシンのように、豪快なストレートを投げ込んだ。



外角高めのストレートは、先ほど「頭悪いくせに」と毒づいていた金髪男の後頭部に、鈍い音を響かせて見事にクリーンヒットした。



もんどりうって倒れた金髪男に、他の3人は一瞬目を奪われたあと、即座に20メートルほど離れた場所にいる進たちの方を振り返った。



彼らの顔がみるみる赤くなり、怒りの形相に変貌していく後ろで、絡まれていた少年と少女が、ポカンと口を開けてこちらを眺めているのが分かった。


周りの人々はもちろん、バッターボックス内のプレイヤーもネット越しに進たちを見ている。



数秒間の静寂。



「ば、ばか!逃げるぞ!」



いの一番に静寂を破ったあきらが、進の腕をひっつかむと、脱兎の如く駆け出した。



ドアを勢いよく開け、UFOキャッチャーにももう見向きもしない。



不良グループの乱暴な足音と罵声が、風のようにゲームセンターから飛び出したふたりの背中に少し遅れて届いた。