スマイリー

いつもは聞き流せる他人のいざこざだった。



例え自分の悪口を言われていても、それに立ち向かう勇気など、進は持ち合わせていなかった。



今回は進の状況が違っていた。



進は有華に助けられ、藍に元気をもらい、あきらにも気を遣わせて、ようやく前向きになり始めたのだ。



長い洞窟の暗闇で、一条の光を見つけたはずの心の中の自分が、一瞬で生き埋めになった気分だった。



部活で3000メートル完走したときと同じくらい、体が火照りに火照った。



こんなに怒ったのはいつ以来だろう。冷静に考える自分はいるが、それが進の身体に歯止めをかける可能性はなかった。



「おい、どうしたんだよ、進?」



あきらの声など全く聞かず、進はベンチの下に転がっている軟球を拾い上げた。



「な、なぁ…進?」



軟球の握りを確かめている進に、あきらが歩みよった。進の怒りがあきらにも伝わったようだ。



「あの不良たちか?あそこで突っ立ってるお二人さんには悪いけど、どうしようもないよ。さわらぬ神に祟りなしって言うじゃないか」



「…むしろあいつらに祟りがあるべきだと思わないか?」



進はあきらの顔を見て、無表情のまま言い放った。