スマイリー

他のベンチに座っている人たちの多くが同じような方向を眺めていることに、進は気付いた。



進はベンチに座ったまま少し身を乗り出して、周りと同じ方向に顔を向けた。



バッターボックスと並行して、見物用のベンチがずらりと並んでいる。



その最も奥にあるベンチに、先ほどから明らかに不良と思われる男子高校生が4人座っていた。



今見るとその4人は立ち上がり、何やら大声をあげている。



彼らの目線の先には、学ランを来た少年がうつ向いたまま立っていた。



「あれ…ウチの制服じゃないか」



打ち終わったあきらがバッターボックスから出てきて、進に話しかけた。



確かにその少年は進たちと同じ学ランを着ている。



「学ランなんてこの辺の学校じゃどこもそうじゃないか。あの不良っぽい人たちは違うみたいだけど」



「そうじゃないって。その後ろの子だよ」



そう言われて進も気付いた。学ランの少年の奥に隠れるように、少女がひとり立っていた。なるほど、進たちの学校のセーラー服を着ているようだ。



「不良グループは…あの制服は西高のブレザーだな」


「詳しいな、あきら」



「あのなー、西高っつったらこの辺じゃ有名な進学校じゃないか。あんなに頭良いのに不良とかもいるんだな、ちゃんと」



あきらは進に預けて置いた学ランを羽織って、自分のカバンの上に積んである財布と携帯電話を左右のポケットにつっこんだ。



「よし、帰るか、進」



進も帰るつもりだった。自分と同じ学校の生徒には違いないが、助ける義理などない。



「おおい、聞こえねえぞ。もっと声張れや」



「天下の西高の生徒にぶつかった罪は重いぞ。頭悪いくせに」



聞こえてきた罵声に、進は勢いよく立ち上がった。



「進?」



あきらの呼び掛けは、進には聞こえなかった。