スマイリー

進は、あきらがいるであろう、時速80キロのボールが打ち出されるバッターボックスに向かった。



あきらはもう、バットを構えてゲームを始めていた。



先ほどとはうって変わって、飛んでくるボールを次々と気持ち良く外野へ打ち返している。



進は、あきらのバッターボックスとはネットで隔てたすぐ後ろのベンチに腰掛けて、ぼうっと周りを眺めていた。



ベンチの周りには、軟球が2、3球落ちている。ファウルチップが器用にネットの合間を縫って転がって来たのだろう。



さっきまであきらが悪戦苦闘していたバッターボックスには、同い年くらいの少年が入っていて、時速130キロの速球を難なく真芯で捉えている。




「ありゃあ、野球部だな」


力強いスウィングを見て、進は思わず呟いた。





ここの施設では、ゲームセンターは当然屋内だが、バッティングセンターは屋外にある。



辺りはすっかり暗くなり、大きなライトがバッティングセンター内を明るく照らしていた。




球を棒で打つ、という単純作業が、どうしてこうも楽しいのか。



小学生くらいの男の子から、その父親くらいの幅広い年齢層の人々で、全てのバッターボックスが埋まっているのを見て、進は思った。



「ボールがガシャッとでて、バットでカキィンと打って、ネットにボスッと引っ掛かる」



ガシャッ。



カキィン。



ボスッ。



ガシャッ。



カキィン。



ボスッ。



「ガシャッ、カキィン、ボスッ。ガシャッ、カキィン、ボスッ。ははは」



ピッチングマシンと、ボールとバッターとバットとネット。



全て一体となって奏でるリズムが面白くなって、進はそのリズムに合わせて口ずさんだ。



なにより、再び前向きな自分が顔を出したことが進は嬉しかった。



現実は何も前進してはいないけれど、心の中の自分が前進しようともがいている。そうはっきりと感じた。



そのきっかけを与えてくれたのは、あきらだった。



面と向かっては言えないけれど、感謝してもしきれないほど、進はあきらに感謝した。