「おっ、進、練習した?」
「まさか。この前がたまたま失敗だったんだよ」
「ほんとかなぁ」
有華は再び自販機の前に腰を下ろして、進を見た。その目が何とも幻惑的で、進はその視線に呼応するかのように、有華の隣に座った。
「2年のとき、ここで、進が男の子を呼び止めたところから、ずっと見てた。進がその人に殴られるまで」
懐かしむように、有華は回想を始めた。
「会話聞いててすぐ分かったんだ。説得してた男の子が、藍先輩の言ってた陸上部の“シン”だってこと。それで、ちょっと不謹慎だけど、嬉しかったんだよね。あたしと似た人がいるって」
「俺のこと?」
「そう。勉強ができるってだけの理由で友達と分かり合えないのは、あたしだけじゃないんだって、そのときは思った」
少し寂しそうな顔をして、有華が言った。
確かに、あの時はなぜ翔一に殴られたのか、全く理解できなかった。翔一との価値観の違いに気づかせてくれたのは、敬太の言葉だった。
“100位をとるのが簡単っていうのは、あくまで進から見ての話だよ”
今なら分かる。翔一の気持ちも、有華の気持ちも。幸か不幸かどちらの成績も、進は経験したのだから。

